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わがままな氷上の貴公子
第2章  プライド


 リンクは年間契約で借りるから、その日に使わなければ無人になる。それはオレも知っているが、だから何だよ。
「そうだ! 悠ちゃん。スケート教えてよ」
「ああ?」
「勿体ないじゃん。空いてるのに」
 “そうだ”じゃないよ……。
 オレは、アイスホッケーのルールさえ知らない。
 でも潤がエレベーターの前に突っ立っているせいで、帰るに帰れなかった。
「行こう。悠ちゃん」
 結局潤に引きずられるようにして、二階のリンクまで連れて行かれた。


 嫌々来たが、誰もいないリンクは気持ちいい。特に今は。
 貸し出しの合間に簡単な整氷作業が入るから、氷の状態もまあまあ。フィギュア用より狭いが、中央に立つと演技前のような気分にもなる。
「早くしろよ!」
 ゆっくりと一周してから潤を見ると、まだスケート靴を履いているところ。ニコニコしながら「ごめんねえ」と言っている。
 ヤル気あんのか?
 それでも一応リンクに入ってくると、すぐコケた……。
 でかいやつがコケるのは迫力がある。起き上がるのにジタバタしているのを見て、つい笑ってしまった。
 巨大亀を裏返したら、こんな感じか?
 「酷いなあ」と言いながらも、やはりニコニコしている。
 いつも、何も考えてないからでかくなったのか?
 のびのび育ったってやつか?
「悠ちゃんが嬉しそうなの、初めて見た」
 やっと立ち上がってフェンスに掴まったまま、嬉しそうにオレを見る。
「そう?」
 “美少年フィギュアスケーター”のオレが、そうヘラヘラしてられるか!
「悠ちゃん。笑っても、やっぱり綺麗だね」
「悠ちゃんて呼ぶなっ」
「いいじゃーん」
 “悠様”って呼べと言ってやりたかったが、こいつなら本当に呼びかねないからやめた。
 いきなりコケたからどうしようかと思ったが、一応は立てるらしい。
 入ったばかりの子供の方が、まだマシだけどな……。
 その程度の実力で、オレの個人レッスンを受けようなんて甘すぎる。
 オレはオリンピックシードレベルだぞ?
 こいつはオレのことを知らなかったから、フィギュアについても知らないんだろう。
「ほらっ」
 仕方なく手を出すと嬉しそうに掴んできたから、ゆっくりリンクの中央まで連れて行った。


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