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わがままな氷上の貴公子
第11章  決意


 以前のオレは、自分で思っていた以上に弱かったかもしれない。
 転倒を恐れて、大技を回避する。それは、本当の滑りじゃない。限界までチャレンジするのが、ここに来ての常識だ。
 転倒したなら、すぐに立て直せばいい。そう思えるようになった。
 逃げていた自分を捨てて、今は挑戦者の気持ち。
 暫くして鈴鹿に声をかけられ、六分間練習へと向かった。


 リンクへ降りストレートへ入ると、潤と和子さんが見える。上の方には、千絵も仲間といた。
 大丈夫だ。しっかり見えてる……。
「悠ちゃーんっ!」
 潤になら、演技中に声をかけられても平気かもしれない。力になるだろう。
 でも他の観客に恥ずかしいから、やめて欲しいけどな……。
 そんなことを考える余裕も出てきた。
 たくさんの横断幕と、それ以上のファン。
 ファンのために滑るんじゃないと思っていたが、それも違うと分かった。自分のためもあるが、応援してくれるみんなのため。
 あいつの優しさが、オレに伝染したのかもしれない。
 後ろを確かめてから、勢いをつけて3ルッツ。
 綺麗に降りると、客席からの歓声と拍手。
 後は、何度か踏み切りを確かめるだけ。
 最初に滑るショート六位の選手だけを残し、他はバックステージへ戻った。
 他のヤツがどんな点数だろうと、オレはベストを尽くすしかない。それで負けるなら、悔しいが潔く負けを認められる。
 一度控室へ戻り、衣装に着替えた。
 身が引き締まる。
 オレのための、オレの使用曲に合わせた、オレだけの衣装。
 これを着るのが最後になるかは、自分次第。もう、誰の結果も関係ない。
 完璧に滑り切れば、必ず暫定一位に立てる。その後は、ショート一位の本堂しかいない。
 鈴鹿に呼ばれて付いて行く。
 九十九が暫定二位だったのは、想定内。
 会場中に、オレの名前が響く。
 鈴鹿に背中を叩かれ、リンクへ降りた。
 拍手の中、一周してから鈴鹿の前でまた無言の激励。
 “美少年フィギュアスケーター”と呼ばれるようになってから、二年が過ぎた。見かけだけじゃないところを披露してやる。


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