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わがままな氷上の貴公子
第11章 決意
中央でポーズを取った静止から、音楽に合わせてステップを始めた。
冒頭は、前回と同じ4回転サルコウ。
練習の成果で、踏み切り、軸、高さ、回転、着氷全てが完璧だった。
次は前回3トウループだったが、3アクセルに。間に軽い動きを入れてから跳んだ3トウループも綺麗に決まった。
ジャンプが決まる度に、拍手と歓声。
フライングコンビネーションスピンは、腕の動きを少し変えた。より優雅に見えるように。
弱点は強化して、強みの優雅さはより優雅にした。
次は、前回3フリップだったところ。ここを、3アクセルに変えた。
以前より勢いを付け、踏み切りも進入角度も完璧。
スムーズな着氷をしながら笑顔を作ると、拍手が大きくなる。
ここで、フライング足替えシットスピン。
軸に気をつけ、指先まで綺麗に魅せる。
エレメンツや着氷が決まる度に、大きな拍手。その中には、潤からものものあるはずだ。
ここまで、コンビネーションジャンプを跳んでいない。
軽い休憩代わりのステップを挟み、曲調が変わる。
“愛の夢”で、最も盛り上がる部分を後半へ繋いだ。
ジャンプは残り三回。
ここからが、基礎点1.1倍の加点が付く。
その最初に決めておきたい、三連続ジャンプ。後になればなるほど、体力的に厳しくなる。
勢いを付けて4回転トゥーループから1オイラー。そして3ループ。
決まった……。
会場全体は、もうオレの味方。
たとえ嫌いな選手でも、素晴らしい演技をすれば惜しみない拍手を送る。それが観客のルールだと知っていても、その気になるのは悪いことじゃない。
ステップシークエンスは、前回と同じ。染みついた細かい動きを変えると、本番でミスをする恐れがある。
そういった危険だけは回避したい。
流れよく繋ぎ、今回のイナバウアーは中央で。
大きな拍手に包まれる。
体を反る直前に潤が見えたから、音楽にも合った艶っぽい表情になれたと思う。
審査員が後で観るVTRには、表情がしっかりと写っているはずだ。
イナバウアーの基礎点は0でも、表現力や演技構成点としてプラスになる。観客からの拍手の大きさも、演技としての得点を左右するから。