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わがままな氷上の貴公子
第3章  心配


「楽しそうねー。悠斗にしては珍しく」
 塔子に見えないように、千絵を睨みつける。
「今日は、あのおっきい人来ないの?」
「潤?」
 普通のファンは、クラブ内へは入れない。全員入れていたら、普段からオレを見られて価値が下がる。
 関係者やメンバー。それと年間契約者はパスを持っていて、それを通さないと入口のドアは開かない。だから訪れたファンは、警備員にプレゼントや手紙などを渡して帰って行く。
「潤くんていうんだー。あの人、いつもニコニコしてるよねー」
 千絵にとっては、障りない話題のつもりだろう。
 オレは潤の話題になっただけで、イライラしてしまった。
 赤坂に言われたんだろうな。オレを元気づけてやってくれとか。否定しても、赤坂はオレと千絵が付き合ってると思い込んでやがる。
「潤くんとは、付き合い長いの?」
「まあな……」
 一瞬迷ったが、そうとしか言いようがない。
 会ったばかりだけど、昨日三回もヤったなんて言えるか!?
「今日は来ないのー?」
「あいつは練習日じゃないから」
 そう言って、塔子に笑顔を見せてからリンクへ降りた。
 ごちゃごちゃとメンバーはいるが、オレが滑り出すと気を遣って避(よ)けていく。中央が空いていたから、勢いをつけて綺麗な3トウループ。
 これくらいなら、多少腰が痛くても簡単だ。中学生にも出来る。
 四階では、ジャンプのタイミングを掴むだけ。大事なのは、ジャンプのタイミングと着氷。マットなどで転んでいいなら、5回転だって難しくはない。
 でもリンクから離れることは、余程の怪我じゃない限り避(さ)ける。
 氷の感覚。滑る速さは、風の感じで分かる。リンクの広さだって、体に染みついていた。
 中央でスピンをして、オレの武器でもあるレイバックスピンへ。
 体を反り、頭の上でエッジを掴む技。
 女子はよく使うが、柔軟さにも自信があるオレは演技にも組み込んでいる。優雅さで勝負するオレには、必須と言ってもいい。
 脚を降ろしてポーズを決めると、拍手も聞こえてくる。
 それに優越感を覚えながら、リンクサイドへ戻った。
「綺麗な動きね……」
 塔子の言葉にも満足。
 オレの強みは優雅さ。そんな容姿に生まれたんだから、しょうがない。


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