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わがままな氷上の貴公子
第3章 心配
千絵の質問に、潤の顔が紅くなったのは気のせいか?
「シャワールームで……」
「会ったんだよなっ!」
何を言う気か分からない潤を遮ってから、紅茶のポットのハンドルを押す。
潤の足を踏んでやったけど、全くの無反応。
こいつ、神経通ってないのか?
潤を野放しにしたら、何を言い出すか分からない。
「アイスホッケーの話でも、してやれば?」
話題を振ってから、カップに紅茶を注ぐ。
「アイスホッケー? 聞きたーい」
塔子が反応してくれて助かった。
でも少なくとも、10分以上は二人切りだっただろう。
潤と塔子は、何を話してたんだ?
オレが絡んだ話題じゃなければ、関係ないが。
潤はオレが聞いている通りの自己紹介を始め、また田舎のことまで。
そんなに田舎がいいなら、さっさと帰れよっ!
アイスホッケー部なのにスケートが苦手なことで、笑いを取っている。
退屈だが、見張っていないと危ないヤツだからしょうがない。
「今度練習に行こうよー」
千絵の言葉を、他人事として聞き流していた。
考えていたのは、新プログラムのステップのこと。
優雅さで勝負するなら、イナバウアーを長めにするのもいいだろう。柔軟性を活かして、女子のように反って魅せる。直接点数にはならないが、全体的な印象や構成への加点に繋がる。
イナバウアーの間は無呼吸で苦しいが、オレには不可欠な技だ。
「いいよね、悠斗っ」
「ああ?」
千絵に言われて顔を向けると、三人の視線が集まっていた。
「何だよ……」
「もうっ! 聞いてなかったの? 日曜に、国立競技場駅に10時っ!」
オレが聞いていない間に、全て決まったらしい。神宮外苑には、年中滑れる一般用のリンクがあるのは知っている。
勝手に決められたんだからすっぽかせばいいが、潤を一人で行かせたら何を話すか分からない。
「10時な……」
溜息をついたが、オレの返事で完全に決定したようだ。千絵と塔子は弁当の相談なんか始めている。
潤に何が好きかなんて訊いてるけど、何だって喰うだろ?
「悠斗は、タラコのおにぎりが好きだったよね?」
子供の頃の話を持ち出しやがった千絵に溜息をついてから、紅茶を飲んだ。