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わがままな氷上の貴公子
第7章 不安
「ただいま。あれ?」
ダイニングへ行くと、テーブルに食事が用意されていない。
和子さんはいるが、オレが帰るまでキッチンの掃除をしていたようだ。
「おかえりなさい。どうしたんですか?」
少し心配そうな表情。
練習で、何かあったと思われたんだろう。
「あいつは……」
てっきり潤がいると思ったのに。
「潤くんなら、来てませんよ。珍しく」
本当に珍しい。
この時間なら、先に食べててもおかしくないのに……。
「そうだ。これ、悠斗さんのじゃありませんよね?」
和子さんが、奥のアイランドキッチンの隅からスマホを持ってくる。
首を振った。
オレのとは、メーカーも違う。
「ゲストルームを掃除したら、落ちてたんです。じゃあ、やっぱり潤くんのですね」
スマホを元へ戻すと、和子さんは調理を始めた。
「着替えてくる……」
潤がいないと、家の中が静か。
長年そうなのに、何となく雰囲気が違うようだ。
部屋でシャツを脱いだ時、ついドアの方を見てしまった。
いつものように、潤がいきなり入ってくる気がして。
潤だって、たまには寮で夕食を食べるだろう。それとも、塔子の所かもしれないし。
……って。何で潤のことを考えてるんだ?
あいつがいないと楽でいい。ゆっくり食事が出来るし、襲われる心配もないんだから。
食卓へ着いたが、勿論前には誰もいない。
自分が、温野菜を食べる音だけが聞こえる。
温野菜と鶏肉を使ったスープに、薄切り豚肉のピカタとフルーツ。それだけが載ったテーブルが広い。
いつもは、潤の食事でいっぱいだったのに……。
あいつだったら、来られない理由を連絡してくるだろう。
でもスマホはここに忘れているし、クラブでは個人練習だから会っていない。
溜息が漏れて、フォークを置いた。
「悠斗さん。もう食べないんですか?」
「ん。食欲なくて……」
何故だか解らない。
元々夜に食べるのは少なめだが、シーズン中の今は出来るだけ食べるようにしているのに。
「ごちそうさま……」
部屋へ戻り、予約録画しておいた大会の演技を確かめる。
周りには分からないだろうが、少し緊張しているように見えた。