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わがままな氷上の貴公子
第7章 不安
そうだよな。
オレは今、特に有名人なんだ。
サインを求めてくるヤツらに、出された手帳にサインをしていった。スマホで、勝手に写真を撮っているヤツもいる。
見回したが、潤の姿はない。
訊くのも癪だ。
それにあいつなら、この騒ぎに気付いて寄って来るだろう。“悠ちゃん”て、ニコニコしながら。
「すみません。階を、間違えました」
笑顔を見せてから、エレベーターへ戻った。
改めて一階を押したが、シャワーは浴びずにタクシーへ乗る。
たった15分だ。シャワーは家で浴びればいい。汗だくというわけじゃないし。
何故か漏れた溜息とともに、シートに身を沈めた。
シャワーを浴びてからダイニングへ行くと、和子さんが仁王立ち。
「悠斗さん! 今日は食べてくださいね!」
いつもと迫力が違う。
テーブルに着くと、次々と料理が出された。
温野菜はいつもだが、スープだけでも3種類。肉や魚料理も、何種類ずつもある。
オレは潤じゃないんだぞ……。
「全部とは言いませんから。とにかく食べてください!」
「ん……」
温野菜は食べ切ったが、他へ手を出す気持ちが沸かない。
溜息をつくと、和子さんが向かいへ座る。
「悠斗さん。潤くんに連絡してみたらどうですか?」
そう言われても、スマホはここにある。それに元々、スマホの番号も知らない。
あいつが来なくなってから一週間。
潤が食べるのを見ているだけで、腹いっぱいだと思っていた。でも、それに釣られて自然と食べていたんだろう。
「悠斗さん……。大事な時期なのは、自分でも充分分かってますよね?」
分かっている。
今日の練習でのミスだって、食べないから体力が持たないせい。
元々持久力がないのに、体力まで減っている。
このままじゃ、オリンピックどころじゃない。
立ち上がろうとした時、どこかから音楽が聞こえた。
和子さんが、慌ててキッチンへ行く。
「はい。あ、塔子ちゃん……」
鳴っていたのは、潤が忘れて行ったスマホ。
「ちょっと待ってくださいね。はい、悠斗さん」
和子さんから、スマホを渡された。