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わがままな氷上の貴公子
第7章 不安
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
鹿児島の空港からタクシーに乗り、運転手にメモの病院名を告げる。
ここまでを、酷く長く感じていた。
どうしてか、メモを持つ手も震えている。
滑る前だって、こんなに緊張したことないのに……。
運転手が何か話しかけてくるが、方言が強くて理解出来ない。適当に相槌を打っているしかなかった。
今標準語で話しかけられても、しっかり答える自信もないが。
普通の病気なら、寮の近くの病院へ行くだろう。そこから紹介されたとしても、都内で済むはずだ。
実家の近くに入院したのは、家族の介護が必要だからか?
それくらい、容態が悪いんだろうか……。
一時間近くもかかって着いた病院は、面会時間ギリギリだった。
大きくはない、四階建ての病院。
看護師達もオレだと気付いたせいで丁寧な対応をされ、笑顔を作って頼まれたサインを残す。
いつもならファンサービスだと思えたが、今は何も感じない。早く潤の病室へ行きたかった。
まずは、面会謝絶じゃなかったことに安心する。
教えてもらった三階へ行くと、誰かの面会を終えた家族達とすれ違った。オレだと気付いたヤツもいたが、無視するように廊下を進んだ。
病院自体が古いせいなのか、全て個室らしい。各ドアには一人ずつのプレートしかない。
“上小園”とプレートに書かれた個室を見つけ、一度立ち止まる。
静かな病院の中で、自分の鼓動が聞こえるようだった。
ノックをしてから、ゆっくりとドアを開けて中へ入る。
狭い病室には、ベッドの他に備え付けの棚と小型の冷蔵庫だけ。真っ白な壁や天井から、寒々しい印象を受けた。その中で、棚の上にある花瓶の花だけが、浮き立って見える。
「潤……?」
呟きながら、ベッドへ近付く。
医療機器の類も、繋がれていない。それにまた、安心する。
「潤?」
もう一度呼んだが、布団を被って熟睡しているようだ。
「……おい。どうしたんだよ」
返事がないから、思い切って布団をめくってみる。
「あんた誰?」
と言ったのは、相手と同時だった。
潤じゃない……。
寝ていたのは中年の男性。
上小園というのは、この辺りでは珍しくない名前なんだろうか?
相手も、驚いてオレを見ている。