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わがままな氷上の貴公子
第7章  不安


 ドアが開き、入って来たのは潤。
「悠ちゃん?」
 両手に持ったビニール袋には、何かたくさんの物が入っていた。
「本当に悠ちゃんだあ」
 元気じゃないかっ!
 塔子のヤツ、何を勘違いしたんだ?
「ちょっと待っててね」
 潤は、持って来た袋から飲み物などを冷蔵庫へ入れている。
「お前……っ」
 脅かせやがって。
 安心感からか、一気に気が抜けた……。
 どうして、あんなに緊張していたんだろう。家を出てからのことも、はっきりとは覚えていない。
「和子さんから家に連絡があって、悠ちゃんが向かったって聞いたから。心配してくれたの?」
「別に……」
 他に言葉が出なかった。
 明日の練習を休んでまで、来てやったのに!
「オレが病気だって、勘違いしたんだってね」
 今は大事な時期だと分かっていて、練習を休むことに躊躇はなかった。そんなこと、頭に無かった。
 何も考えられなくなっていた……。
「親父が脚折っちゃってさあ。今、祭りの準備中で、すぐ帰るように言われちゃってえ」
 いつものようにニコニコしている潤に腹が立ちながらも、潤の父親と挨拶を交わす。
「どんなに忙しくたって、電話くらい出来るだろ?」
「悠ちゃんの番号知らないから、手帳見てエビちゃんに連絡したんだけど。スマホ失くしちゃったし」
「ウチに忘れてるよっ」
 潤は、「よかったあ」と言って笑っている。それがさらにムカついた。
「あの……。少し疲れたので、失礼します。お大事に」
 父親にそう言って廊下へ出ると、潤が付いてくる。
「いいのかよ。面会……」
「飲み物とか持って来たし、悠ちゃんに会いたかったから」
 言ってろ!
 でも、自分が安心していることを認めるしかなかった。
 どうして、あんなに緊張していたんだろう……。
 自分の気持ちが分からなくなる。
 もしこれが千絵や塔子だったら、駆け付けたりはしなかったはず。
「悠ちゃん。今晩ウチに泊る?」
「和子さんが、ホテルも取ってくれたから。じゃあな……」
「俺も行くー。案内するからあ」
 潤は、嬉しそうに付いてくる。
 案内といっても、ホテルの住所は分かっていた。和子さんのメモに書いてある。


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