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わがままな氷上の貴公子
第9章  ファイナル


 視線を巡らせると、海外選手同士の衝突らしい。
 六分間練習ではたまに起こるが、大概軽いことで済む。
 普通は相手の動きを見ながら、進路を空けるものだ。このクラスの選手なら常識なのに。
 座ったままの選手は足首を押さえ、苦しそうな表情だ。
 まさか……。
 棄権なんてやめてくれよ……。
 お前が棄権なんてしたら、オレは本堂の次に滑ることになるじゃないか!
 本堂の次に今座り込んでいる選手が滑り、オレは一番最後。
 ミスがあっても、ショートの時の本堂への盛り上がりは凄かった。全員がスタンディングオベーション。
 そんな後で滑れば、苦手なフリーで圧倒されてしまう。
 審査員の印象も変わってくる。
 担架が来て、選手が運ばれて行った。
 オリンピックが賭かってるんだから、出るよな?
 応急処置をすれば、滑れるよな?
 何喰わぬ顔をして滑りながらも、内心は焦っていた。
 そのうちに六分間練習が終わり、最初に滑る六位の九十九以外はバックステージへ戻る。
 廊下で踏み切りのタイミングを確かめたりして、体を動かしていた。
 そんな所へも、マスコミの取材陣がいる。
 話しかけられはしないが、マイクを持って小声で中継をしていた。
 ヘッドフォンをして、フリーの曲を聴く。
 モチベーションを上げるために、気に入った音楽を聴くヤツも多い。でもオレはフリーの使用曲を聴き、再度イメージを掴みながら軽く動いていた。
 決心……。
 オレの気持ちは、もう決まっていた。
 コーチの鈴鹿が来て何か言っているから、ヘッドフォンを外す。
 聞いたのは、さっきぶつかった選手の棄権。
 多少のケガなら無理しても出るだろうが、足首を骨折したそうだ。
 骨折した選手には悪いが、オレは運がない。日本開催だから、海外より本堂のファンが多くいる。
 それでなくても国に関係なく、いい演技には観客全員称賛するのがフィギュアの決まり。
 一人抜ければ、オレは本堂への称賛の中でリンクへ出なければならない。
 審査員にも、直接本堂と比べられてしまう。滑走順が、精神面を左右するのは少なくない。
 正直、動揺はあった。


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