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〜 夏の華 ショートストーリー集〜
第10章 聖なる夜の手紙
…手紙を読み終えた月城の耳に、暁の啜り泣きが聞こえた。
「…あんなに気が強くて意地っ張りな薫が、こんな手紙を書くなんて…。
薫は暁人くんを好きなんだ…。僕には分かる。
どれだけ辛いだろう…。
…何より…暁人くんは、まだ十九歳だというのに…!」
「暁様…!」
その深く傷ついた心を身体ごと引き寄せ、抱き締める。
「…春馬さんや絢子さんはどれほど哀しんでいるだろう…!
あんなに素晴らしい息子を喪うなんて…。
信じられない…!」
…それに…。
と、哀しみに沈んだ声が続く。
「…うちの被害もだけれど、春馬さんの屋敷が全滅だなんて…。
あの立派な屋敷が…。
どれだけ酷い空襲だったのだろう…」

飯倉の一等地に堂々とした居を構える大紋邸…。
幾度か訪問したチューダー様式の洗練された趣味の良い洋館を思い出す。
…その大紋の屋敷に、かつて暁は何度も足を運んだことがあるのだろう。
それこそ、月城の比ではないほどに…。
その表情には、深い哀しみとともに、切ないような思慕の色が微かに浮かんでいるような気がして、月城を密かに息苦しくさせた。
…私は…どうかしている…。
こんな時に…まだ嫉妬するなんて…。

醜い感情を振り払うように暁の貌を優しく見つめ、強く励ます。
「暁人様は、まだ亡くなったと決まったわけではありません。
日本は今、未曾有の大混乱の中にあります。
戦死者の誤報も多いと聞きます。
希望を捨ててはなりません」
その言葉に、暁の白磁のような貌にうっすらと血の気が戻ってきた。
「…月城…。
そうだね…。
僕たちが信じなければ…薫も…春馬さんも絢子さんも信じて暁人くんの帰還を祈っているのだから…」
「はい。
…私も何かできることはないか、明日にでもパリの風間様に連絡を取ってみましょう」
「ありがとう、月城…」
暁の白い指が、そっと月城の唇に触れた。

…それは、キスを欲しがる時の暁の癖であった。

「…暁様…」
月城は形の良い顎を引き寄せ、情熱的に唇を奪った。
「…んっ…つき…しろ…」
震える唇は、何より暁の動揺と不安を物語っていた。

…甘く濃密な口づけを与え、暁の不安を押し流すようにそのまま深く抱き締める。
「…暁様…。愛しています…」
幾千回も繰り返した愛の言葉とともに、月城は赤々と燃える暖炉の前に暁を押し倒し、身体を重ねるのだった…。






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