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〜 夏の華 ショートストーリー集〜
第10章 聖なる夜の手紙
和やかに食事が進み、食後のデザートを始めていた頃…その少年は扉を叩きながら軽やかに入ってきた。
「こんにちは、アキラ。今日はお休み?
ママンがドライハーブができたから持ってゆけ…て…。
…あ…!」

…隣家のペンションの息子、ミシェルだ。
ミシェルは十四歳…昔のように小鳥がさえずるようにお喋りばかりしていた頃とはがらりと変わり、物静かな少年になっていた。
ミシェルは、目の前に座っていた瑠璃子を見て、その空色の瞳を見開いた。
そうして、信じられないように穴が空くほどに瑠璃子を見つめていた。

「ミシェル。紹介しよう」
暁が優しく笑い立ち上がった。
「…僕の友人のムッシュ・カザマとマダム・カザマ…そしてマドモアゼル・ルリコだ。
ルリコは十二歳だから君と歳も近いね」

ミシェルはまるで熱に浮かされたかのように夢見心地の口調で語りかけた。
「…ルリコ…。とても…可愛い名前だね。
それにすごく…すごく綺麗だ…」
恥ずかしがり屋な瑠璃子は頰を赤らめ、眼を伏せた。
「ご、ごめんね、不躾に…。
あの…。初めまして。
僕はミシェル・エルメ。
アキラの隣の家に住んでいて、家はペンションをやってるんだ。
よろしく」

暁と月城は眼を見合わせた。
普段、物静かなミシェルがこんなに饒舌に…ましてや初対面の女の子に自分から話しかけるのは本当に珍しいことだからだ。

おずおずと握手を求めるミシェルに、瑠璃子はややはにかみながらも素直に白い手を差し出した。
「…初めまして」
ミシェルはその手を大切に押し懐くように握りしめ、けれどすぐに離した。
そして、全ての勇気を奮い起こしたかのように口を開いた。
「…あの…。ルリコ…。
いきなりだけど、良かったらうちに来ない?
うちは温室で花の栽培もしているんだ。
それで今、ママンとパパが温室でクリスマスローズを収穫しているんだ。
今年はとても出来が良かったから、誰かにあげたいな…て思っていて…。良かったら、ルリコにたくさんプレゼントしたいんだけど…」

瑠璃子は長く濃い睫毛を瞬かせた。
…はにかみ屋の瑠璃子だ。
直ぐに断るだろう…と誰もが思った次の瞬間、瑠璃子は百合子を振り返った。
「ママン…。伺ってもいいかしら?
私、クリスマスローズを見てみたいわ」
百合子は少し驚いたように美しい眼を見張ったが、優しく頷いた。
「ええ。いいわよ。きちんとご挨拶してね」
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