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〜 夏の華 ショートストーリー集〜
第10章 聖なる夜の手紙
「…そして、暁人様のことですが…」
月城が切り出すと、テーブルは重々しい空気に包まれた。
風間が苦しげにため息を吐いた。
「司からの手紙にも書いてあったよ。
戦死は正式な公報だったらしい。
大紋さんはひどく憔悴しておられたそうだ。
絢子さんは今、精神に混乱をきたされて…大紋さんのこともお分かりではないらしい。
…ひたすら、暁人くんを探して病院中を彷徨っておられると…」

司の手紙は事細かに詳細が書かれていたようだ。
その内容の生々しさに、月城と暁は思わず息を飲んだ。
「…絢子さん…どんなにお辛いだろう。
絢子さんは一人息子の暁人くんを本当に可愛がっていらした。
昔、ある夏休みに暁人くんと薫が学院の上級生の別荘に行ったまま行方不明になったことがあって…。
翌日見つかったのだけれど、たった一晩でも絢子さんは半狂乱になってしまわれたんだ。
…それなのに…今度は…」
暁は言葉を詰まらせた。
「…暁様…」
月城がそっと暁の震える手を握りしめる。
「…春馬さんもだ。
絢子さんの手前、きっと気丈に振る舞っているだろうけれど…どんなに悲しんでいるか…」

百合子がハンカチを眼に押し当てた。
「…子どもに先立たれるなんて…これ以上の悲しみはありませんわ。
無事と分かっていて会えないのですら辛いというのに…。
大紋様ご夫妻の胸中をお察しいたしますわ…」

重く悲しみに包まれた空気の中、凛とした声が響いた。
「まだ戦死と決まったわけではない。
フランスでも戦死の報があってもひょっこりと生還した兵士や軍人の例はたくさんある。
俺たちにできることは少ないが、なんとか暁人くんの情報を集めてみよう。
例えば捕虜となって北方で抑留されている可能性も捨てきれない。
あるいは欧州に逃げ延びているかもしれない。
パリの日本領事館と知り合いの元連合軍のお偉方にコンタクトを取ってみよう」
風間の冷静で頼もしい申し出に、暁は心からの礼を述べた。
「ありがとうございます。忍さん。
本当に…感謝します」

風間はふっと悪戯めいた笑みを浮かべ、首を振った。
「縣家と春馬さんには大恩があるからね。
俺は義理堅い男なんだ。
…俺に惚れ直すなよ?暁。揉めるからな」

月城が苦い貌で咳払いをし、暁は思わず吹き出した。
百合子はおおらかに微笑み、首を傾げてみせた。
「何のお話かしら?」
百合子は誰よりも上手なのだった。


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