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SS作品集
第10章 黒い時計
一人暮らしの家に帰り夕食を食べて風呂に入った後、テレビを点けてソファーに座る。
テレビでは芸人達が楽しそうに騒いでいた。
ふと黒い時計のことを思い出して、鞄から出す。時刻は22:14のまま。
部屋の時計を見ると、後1分でその時間。
やはり壊れているのだろうか。
捨てようか悩んでいると、急に眩暈のようなものを感じた。
眩暈ではない。地震だ! それも割と大きい。
ここはマンションの5階だから余計にそう感じるのだろうが、横揺れが強く、後ろの本棚から本が落ちてきて頭にぶつかった。
地震は2分間程だろうか。そういった時間は長く感じるものだが、ほどなくしてテレビ番組の上部に地震速報のテロップが出る。
震度4。都心には大きい方だ。
机の上に落ちた本を片付けようとして、黒い時計が目に入った。
また時刻が動いている。
止まったのは、8:21。
その時間なら会社に通勤する途中だが、一応明日のスケジュール帳に書き込んでおく。
僕はその黒い時計を鞄に入れた。今度はどんな時間で止まるのか見てみたい。
暫くテレビを観て、僕はいつも通りの時間にベッドに入った。
黒い時計は、3日間あの時間で止まったまま。
それから1週間。僕はその時間も黒い時計の存在も忘れかけ、鞄に入れっぱなしになっていた。
《8:21発、1番線、間もなく発車いたします》
ホームに流れるアナウンスに、僕は電車へと走る。
いつもと同じ電車。いつもと変わらない光景。
だが僕が電車に右足を踏み入れた瞬間、ドアが閉まった。ホームにいる人達から、悲鳴のようなものが聞こえる。
ドアは開かないまま発車し、僕の右足を挟んだまま数十メートル進んでやっと止まったが、僕は右足を骨折して入院することになってしまった。
あの黒い時計が止まった時刻に、僕に災難が起こる。
課長は、毎日タイムカードを確認するわけではない。僕が遅刻したあの日に限ってだ。
これはまだ軽いと考えてもいいだろう。実際に遅刻したのは、僕の責任。
だが、地震だってそう。医者に行くほどではないが、落ちてきた本が頭に当たって痛い思いをした。