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SS作品集
第11章 ゲキカラ
勿論、いつも一味唐辛子は持ち歩いている。
そこは、あまり格式張っていないフレンチレストラン。
それでも僕には結構な出費だ。
言っておくが、彼女がせがんだわけじゃない。
以前一緒に雑誌を見ていて、彼女が興味を持っていたようだったし、大学からも近いから。
ドレスコードも無く、ジーンズで気楽に食べられるフレンチレストランと雑誌に書いてあった。
その店でのフルコース。
一応僕は、スラックスにジャケットという格好で行った。
本格的なフレンチと変わらない扱いで、ちょっとしたセレブ気分。
出てきた前菜の説明をされても、僕にはよく解らない。でも彼女が嬉しそうだからそれでいい。
僕は前菜に一味唐辛子をたっぷりと振りかける。
今日はフルコースだから、一味唐辛子の瓶を3本用意してきた。
「ここでも、一味唐辛子なの?」
彼女に訊かれたけど、僕は気にせずに食べる。
スープやサラダにも一味唐辛子。メーンは小さなステーキだけど、一味唐辛子とよく合った。
途中から、彼女の表情が段々と暗くなっていく。思っていたより美味しく無かったのかもしれないが、それは僕のせいじゃない。
食後のコーヒー。さすがにコーヒーには一味唐辛子を使わない。味が濃くて、ちゃんとしたコーヒーだ。
「ねぇ……。もう、こういう所に来るのはやめよう……」
彼女が小さな声で言う。
やっぱり、彼女にはあまり美味しくなかったのかもしれない。僕は大量の一味唐辛子のお蔭で満足だったけど。
店を出ると、彼女はお礼だけ言って帰ってしまった。
その後、彼女からの連絡は無い。大学で合っても、無視するように僕に近付かなくなった。
あの店が彼女にとって不味かったのは、僕のせいじゃないのに。
「おまえ、フレンチに行っても一味唐辛子を使ったのか?」
相談した友達に言われ、僕は頷いた。