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微睡みの中で
第8章 微睡み。

そんなある日の仕事中、品出しするためにダンボールの乗った荷台を押していた。


その時印象は変わっていたが見覚えのある客とすれ違った。
確信はなかったが、立ち止まって振り向いてしまった。


その人がポケットからスマホを取り出すと、同時にハンカチがポトリと落ちた。


俺はハンカチを拾うと落とし主を追い、肩をトントンと叩いて声を掛けた。


「あの…お客様」


振り向いたその人は、見覚えがあって当然だった。


高校の時は長かった髪を短く切っていて、すこし大人びた顔になっていた。


「はい?…えっ?聡?ここで働いてたんだ!久しぶりだね。卒業して以来…元気だった?」


「やっぱり莉奈だ。これ…さっき落としてた。俺は元気だよ。そっちこそ最近どう?」


「あ、ハンカチ!ごめんね、ありがとう。私の方も元気…ってか、元気じゃなきゃいけなくて」


立ち話をしていると怒られてしまうので、品出しをしながら話す俺をみながら、莉奈は他の客の邪魔にならない所にカートを寄せ、商品を選ぶフリをした。


その時、莉奈が肩に掛けているカバンに見たことのあるチャームが付いていた。


「え、お前もしかして…」


「ん?…ああ、うん。最近妊娠したんだ。4ヶ月なの」


「へぇー!あの莉奈がお母さんになるのか。おめでとう」


「『あの』ってなによ、失礼ね!でも…うん、ありがとう。がんばるよ」


本当、こうして笑い合うのはいつぶりだろう。


何よりも…莉奈が元気そうで良かった。
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