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微睡みの中で
第8章 微睡み。
「私も…愛してるよ」


と小さく、優しく囁いた。


その姿が可愛くて、仕方なくて。


俺は胸の中に潜り込んできた沙耶香を抱き締めた。


「寝てる時じゃなくて起きてる時に言ってよ」


沙耶香は茹で蛸の如く顔を真っ赤にして、胸に顔を埋めた。


「…っ起きてたじゃない」


「もう1回言ってよ、俺の事好き?」


「い…嫌よ…っ」


「お願い、沙耶香」


髪を撫で、沙耶香の顔を覗き込む。


沙耶香は観念したようにゆっくりと口を開いた。


「言われてから気づいたけど…今まで感じたことない感情だったの。なんか、これ以上ないくらい。す、好きよ!あ…愛してるわよ…ッ!」


「…俺も沙耶香の事好きになれて、好きになってもらえてすげえ嬉しいよ」


俺はモゾモゾと布団の中で照れながら悶える沙耶香に微笑みかけ、額に軽く口付ける。


沙耶香が嬉しそうにふふっと笑う。


こんな甘くてベタなやり取りを、自分がするとは夢にも思わなかった。


でもこういった時間こそが最高に幸せな時間だと感じていた。


愛の形は人それぞれというのは本当にそうだと思う。


俺らは身体の関係の方が先で、しばらくはそのような関係を続けてきたから。


もし過去の俺や、沙耶香のように。


人の好きになり方が分からなくても、きっと大丈夫だ。


焦る必要も、皆と同じである必要もなくて。


…俺って馬鹿だから。うまく言い表せないけど。


自由で人間らしい生き方をするのは簡単なようですごく難しくて。


本当はいろんな感情が雁字搦めになってて苦しい。


でも、人はちゃんと愛し合って生きていけるものだと、思っているから。


今までの俺は間違えていたかもしれないけど。


でも、別に最初に恋愛感情がなくたって、自分が一緒にいたいと思える人と過ごすこと。


それが、俺なりに出した「自由で人間らしい生き方」だった。




『微睡みの中で』 ─了─
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