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女子大生、文香の受難
第1章 受難1・藪名の診察
「いつも診てもらってる内科さん、午後からはお休みなんだ……」

文香はスマホの画面に目を落とし、溜め息をついた。



彼女の名前は美澄文香(みすみふみか)、都内の下宿先で一人暮らししながら大学に通う2回生だ。

年が明けてからしばらく経ち、文香の通う大学の通常授業は一旦終了して試験への準備期間に差し掛かっていた。したがって学部生は数日間だけ休みが与えられたことになる。

この日、文香は友人たちと大学図書館で試験勉強をするつもりだったのだが、朝起きてみれば体全体に熱っぽさを感じる。喉にも何かが突き刺さったような痛みが有り、上半身を起こすのもやっとなくらいの怠さだ。
体温を測ってみれば、37度7分。微熱に入る温度だ。

(風邪かな。もうじき試験なのに、こじらせちゃまずいよね)

友人たちとのトークルームに風邪を引いたかもしれず今日は行けない旨を送ると、返ってくる「お大事に」の文字。友人への連絡の次は薬を貰わなければいけない。文香は重い腰を上げて、大きめのセーターとロングスカートに着替えた。なんとなく腹の辺りも気持ち悪いので黒タイツで締め付けられるのは憂鬱だったが、外の寒さで悪化してはいけない、と渋々タイツにも足を通す。

それから検索サイトでかかりつけの病院を調べてみるが、運悪く本日は午後から休診のようだ。他にかかったことのある総合病院は下宿から遠く、バスで40分もかかる。明日以降にしようにも、今日は土曜日。今日診てもらわないと早くて明後日になってしまう。
どこでもいいから今日中に近所で手軽に診察してもらえる医者は無いか、と探してみると、一軒の小さな診療所が引っ掛かった。






十数分後、文香は藪名(やぶな)医院という診療所に訪れていた。検索サイトでの口コミは無く、どのような医者かは分からないが、とにかく今日中に薬さえ貰えれば……と妥協した結果だ。

「ちょっと心配な名前だけど、大丈夫、だよね」

待合室には人はおらず、午後からの診察は文香が最初の患者のようだ。窓口の事務員に保険証と問診票を提出し、落ち着かない様子で待っていると、ほどなく名前を呼ばれた。
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