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魚の骨
第1章 契り
答えを聞いた彼は笑っていた。いたずらが好きな少年のように笑ってる横顔はずるいくらい可愛かった。
どれだけ年の差があるのか何度も話したことがあるけど、同じ気持ちになった瞬間が1秒でもあれば、同級生と変わらないと思ってる。

そんな話を彼にすると「思いっきりぶりがすごいねぇ」と冷静に返された。お互いいつも冷静なところも、また同じだと思う。私は同じところを毎日沢山探してる。例え他人から見ると言いがかりのような共通点でも、宝物になった。


「エッチしながら初めてこんなに笑ったよ」と彼に言われ、私もつられて笑う。彼の思いは止まらないし、彼の全てを触れたくて知りたいと思うけど、今日はこれで帰っても幸せな気持ちがずっと続くと思えた。


私にとってセックスはもっと好きになりたいからという理由がわかった今日。笑ってる横顔を見てもっと好きになってしまった。だから、今日はこれでいいと思えた。


ホテルを出る時間まで唇が荒れるほど口を重ねた。彼の肩の感触も耳の後ろの匂いも、男らしい突起も全て記憶に残るように何度も腕を回したり確かめたり味わった。
海で溺れかけてた私を救ってくれた人に感謝するように、彼に想いを伝えながら「また会ってほしい」と、初対面のように頼み込んだ。


彼は笑いながら「また来るから」と言うけれど
笑い事ではなかった。今日が最後かもしれないと、もう忘れてしまうかもしれないと、次の1ヶ月で私のことを嫌うかもしれないとホテルを出る時間が近づくと空模様が怪しくなってくる。


せめて雨が降ればいいのに。土砂降りの雨が降れば、もう少し一緒にいてくれるかもしれない。
ただ、ただ曇り空になるだけで言うことを聞いてくれるのは彼に触れられた時だけだった。

彼が離れていくときは私の体は何も言うことを聞かない。
王様であって英雄であって飼い主である彼がいない体は干からびていくばかりだった。
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