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堕落の絵画 調教の目覚め
第4章 飢えた身体と絵画の部屋
「何もおもてなしできないけど」
綾野が淹れた温かいダージリンティーに口をつけると、やっと少し落ち着いた心持ちになった。

「画集はたくさん揃ってるから、好きなだけ読んで」
天井まで高さのある本棚には、ルーベンスをはじめ様々な画家の画集が並んでいた。
「すごい!これ全部買ったんですか?」
ずっしり重いルーベンス画集を手に取り、ページを開く。
夢中で読み込んだ。

絵画の世界に浸る感覚を、忙しさにかまけて何年も忘れていた。
久々に心躍り、顔がほころぶ。

「ルーベンスが描く神話画の鮮やかな色と輝く肌の質感に、とても惹かれる」
綾野は摩耶子のすぐ横に腰を下ろし、絵画を指差しながら解説する。
あらためて見ると綺麗な横顔だ。
濃い睫毛の影が目元に落ちている。

ページをめくる指は男性らしく骨ばっていて、思わず見入ってしまう。
だめだ。このままではまた変な気分になってしまう。

「私も、この絵のここが……」
ふと、2人が同時に伸ばした指先が触れた。
「あっ……」
思わず手を引いた。
明らかな過剰反応に、綾野が不思議がっている。
「あの……ごめんなさい」

ひどく動揺し、気まずい沈黙が流れた。
摩耶子は少しうつむき、いつもの癖で自分の髪に触れる。

「きれいな髪だ。まるで 『三美神』タレイアのようだ」
沈黙を破ったのは綾野だった。
摩耶子の方へ近づき髪に手を伸ばすと、くしでとかすようにサラサラと指を通す。
「あっ……あの、綾野さん?」

驚くほどゆっくりとした手つきで、こぼれ落ちた摩耶子の長い黒髪を丁寧に耳へかける。
綾野の指先が柔らかに耳へ触れる度、甘い痺れが全身に流れた。
緊張と妙な痺れに支配され、鼓動が速まる。

いつのまにか、息がかかる程近い距離になっていた。

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