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お良の性春
第1章    好色歌留多 裸地獄
 お良も、衝立の前にいた九人の男女も、あたかもスローモーションビデオのように倒れる衝立に呆然としていた。そして、倒れた衝立の後ろから真っ裸のお良の姿が現れた。
 それは突然、天から舞い降りた天女さながらであった。
 雪のような肌は眩しいほどに美しく、そのすらりと伸びた肢体はミロのビーナスにも負けない神々しさ。
 男どもも、そして娘たちも息を呑んだ。美し過ぎるほど美しいのだ。
 わずかな時が流れた。それは、一瞬の映像だった。

 衝撃のような状況に源一郎が咄嗟に動いた。

 源一郎はお良の手を取ると隣室の襖を開けてお良を引きずり込んだ。
 ピシャリッと襖を後ろ手に閉める音が響く。

 さらに、隅に畳まれていたお良の着物を持った小間物屋のお節がそのあとを追った。

 お節が投げ込んでくれた衣類を手に、お良は腰巻を捜すが、ない。ないのだ。

 腰巻はまだ倒れた衝立の下にでも隠れているのだろう。腰巻はなくてもいい。襦袢に袷、一息に身繕いを整える。

 お良は全身から力が抜けるような安堵感に浸たる。何はともかく、着物を羽織った。地獄のような裸身はもうない。そう思ってへたり込んだとき、お良はハタと腰巻を思い出した。

 「腰巻だ」

 先ほどまで己の体を覆っていた腰巻が広間の真ん中に。顔から火の出るような恥ずかしさが再び襲う。

 躊躇している暇はない。恥も外聞も捨てて、お良はサッと襖を開いて広間に出る。
 広間では戦い終えた九人の男女が興奮冷めやらぬ顔で、めいめい身繕いの最中。

 腰巻は、立てられた衝立の上に引っ掛かったままだった。腰巻目指して一直線。お良は奪うように腰巻を手に取ると、挨拶も忘れて屋敷を飛び出した。

 お良は我が家に向かって走った。

 お良を追うように庭の大島桜の花びらがヒラヒラと舞っていた。

 その手にも衝立から取った腰巻がヒラヒラと舞う。

 お良は腰巻に気がついたが、畳む間も惜しく、走りながら袂に突っ込む。
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