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お良の性春
第1章    好色歌留多 裸地獄
 「お良さん、何も皆の前で腰巻を取れとは決めていない。ようは、腰巻を取ればいいのです。あの衝立の後ろでお取りください。取ったら、証拠にその腰巻を上に掛けてください」

 源一郎は、なんとか冷静さを装おいながら、広間の隅の衝立を指差した。
 聞くが早いか、お良は衝立の裏に一目散で逃げ込んだ。
 何はともかく、これでみんなの目から姿を隠すことが出来た。
 それは一陣の風が音もなく広間を吹きぬけたような一瞬の出来事であった。

 腰巻が舞った。
 美しいお良の足が太腿まで露になった。
 瞬く間にお良は衝立の裏に消えた。
 夢か幻か。
 五人の男たちも四人の娘たちも固唾を呑んで見とれていた。

 お良のうなじに汗が流れる。腰巻一枚というのに、恥ずかしさのあまり体は熱を帯びたかのように火照っていた。
 とりあえずはホッとしたが、まだ終ってはいない。

 この腰巻を解かなければならない。誰も見ていないとはいえ、全裸だ。

 (ああ恥ずかしい)

 それに、今までわが身を覆っていた腰巻を衆目の前に投げ出さなければならないのだ。

 それは、裸になる以上の恥辱をお良に感じさせるものであった。

 そして、その恥ずかしさが、最後に思いもよらないドラマを引き起こすことになろうとは。


 そこまでの不運を、お良は夢にだにしていなかった。


 お良は腰巻の紐を解き、素っ裸になっていた。

 誰も見ていないのに、左手は恥部を覆う。隠さずにはいられなかった。この衝立の前には五人の男の目がある。

 「エイ」

 お良は思い切ってその手にした腰巻を衝立の上に投げ掛けた。そのとき、体がバランスを失いヨロヨロッと一歩前に出た。
 前に出たお良の体がトンと衝立に触れる。
 衝立は音もなく、ゆっくりと前に倒れていった。
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