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お良の性春
第1章    好色歌留多 裸地獄
 時は春。
 町外れを流れる川の堤の染井吉野は、すでに七八分咲きの見頃を迎えていた。春風が頬を撫で、陽光が全身を包む。
 近くの小間物屋の娘お節と連れ立って早川様のお屋敷に向かうお良たちの足取りはおのずと早まり、まるで小走りのように進む。
 早川様の屋敷の門をくぐると、庭に植えられた大島桜はすでに満開。見事な純白の花びらを春風に靡かせて、見るものの目を奪う。
 二人は広間に通された。広間にはすでに先客が集い、和気藹々と話しに興じていた。
 お良たちはうきうきする気持を抑えるように部屋の隅に席を取った。
 すると、それを観ていた龍之介がさっそく二人の前に胡坐をかく。

 「お良さん、あなたにぜひともお酌をお願いしたい」

 龍之介はこの家の嫡男・源一郎の道場仲間。見るからに腕っ節が強そうな、いわゆる豪傑肌。右手に徳利、左手にお猪口を持って、お良の前に差し出す。

 「わたしでよかったら、龍之介様、何杯でもお注ぎしますわ」

 お良は求められるままに龍之介の盃を酒で満す。龍之介はその盃を一気に飲み干し「旨い」と大きな声を上げる。

 座は一気に盛り上がり、広間には若い男女の笑い声が響き渡った。

 その日のカルタ会の出席者は男五人。女五人。
 出席者の顔ぶれをざっと紹介すると、男はこの家の嫡男・源一郎、その道場仲間の龍之介、学問所の友人一之進、源一郎のいとこの喜一、隣家の嫡男で源一郎の竹馬の友である清三郎。
 娘の参加者はお良、お節の二人の商家の娘と源一郎の妹お松、松の幼馴染お雪、父の同僚の娘お恵。

 総勢十人。そろいもそろっての美男美女。
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