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お良の性春
第5章  波乱万丈 若後家 恋の旅立ち
 「いつまでも一人で置いておくわけにはいかないようだ」

 お良を前に父伊兵衛が再婚話を切り出した。

 「じつは、江戸の老舗・薬種問屋越後屋の女将から息子の嫁に欲しいと話がある」
 「江戸・・・」

 娘を江戸に嫁がせたらもう二度と会うことも叶わぬ・・・。
 江戸と聞いて母の顔が曇った。
 しかし、お良には遠い地を勧めてくれる父の気持ちがうれしかった。 
 頬をパッと染めて、どんな人かと尋ねるように父の顔を覗き込む。

 「跡取り息子の清兵衛さんだ。働き者で、おまけに役者のようないい男。その上、お前と同じバツ一」

 「東男に京女」

 当時、男と言えばなんと言っても江戸が一番。
 お良の胸は訳もなく時めく。
 とはいえ、別れた先妻の事がいささか気になるお良。

 「奥さんとは?」
 「労咳で亡くなった」
 「労咳・・・」

 「労咳」とは「結核」のことである。
 抗生物質が発見されるまで、労咳は不治の病。

 (わたしと同じ死別れか)
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