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フリマアプリの恋人
第5章 チャイナローズの躊躇い
二時間ほど集中し、持参したノートパソコンで原稿の下書きを粗方終わらせた。
開け放った窓からは潮の香りと柔らかな風が吹き、柊司は広やかな心持ちになっていた。
仕事は都内の自宅にいる時より捗るような気がした。
…それに、階下に澄佳がいると思うと、幸せが満ちる。
柊司は大きく伸びをすると、立ち上がり窓辺に立つ。
…内房の海は穏やかだな…。
群青色の海の間に白い波濤が見え隠れし、ぽつりぽつりと漁船が点在していた。

…いいところだな…本当に…。
微笑みながら牧歌的な自然の美の風景を眺め、ふと壁際の本棚に眼を移す。

アクセサリー作りの参考にするのだろう…アクセサリーのデザイン本や料理本などがきちんと並べられていた。
…棚の一番下に古い画集が置かれていた。

見慣れた絵に思わず手を伸ばす。
…ケイト・グリナーウェイの画集だ。

「…グリナーウェイの花言葉…か…」
英国文学研究者としては大変馴染みの絵本作家だ。
…ヴィクトリア朝に活躍した英国の挿絵作家でもある。
彼女の花言葉は、当時人気のあった美しい花々を描き、ワーズワースやキース、シェリーなど有名詩人の詩を引用し載せた優れた文学作品ともいえる一冊であった。

…そんな本を澄佳が愛読していたのだと知り、嬉しくなった。
開かれた本棚に置かれている気楽さから、ぱらぱらと手に取り、ページを捲る。

…と、本の中程から一枚の写真がひらりと舞い落ちた…。

慌てて拾い上げ、何の気なしに表を見…手が止まる。

…そこに映っていたのは若々しい…三十代後半くらいの男と…その男に肩を抱かれた澄佳の写真であった。

…男は引き締まった精悍な貌立ちをしていた。
ハンサムな男…と評されるような貌立ちだが、どこか酷薄さと傲慢さが透けて見えるような…そんな男であった。
男に肩を抱かれている澄佳は今よりも大分若い…幼いと言っても良い姿をしていた。
…二十歳そこそこの年頃だろう。

髪は前髪を下ろしたショートボブだ。
頰がややふっくらしているのはまだ少女の名残りを留めているからだろう。
…けれど透けるような白い肌、形の良い眉、涼やかな黒眼勝ちの美しい瞳、すんなり整った鼻梁、桜色の可憐な唇…と、写真からでもその並外れた美貌は伝わってきた。

柊司は隣の男に眼を凝らす。

…この男が…かつての恋人か…。
澄佳の初めての男…そして心に深い傷を負わせた男…。
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