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フリマアプリの恋人
第6章 チャイナローズの躊躇い 〜告白〜
「いらっしゃいませ。昼定食のメニューになります」
澄佳は男に声を掛け、プラスチックケースに入ったメニューを渡し、湯飲み茶わんにお茶を注いだ。

…窓の外を眺めていた男の視線がゆっくりと動き、澄佳を見上げ…瞬間、釘付けになった。
鋭い眼差しの眼を細め、じっと見つめる。

無言の男にやや戸惑いながら、更に説明する。
「…今日の昼定食は、きんめの煮付けかカキフライです」
「ふうん…」
メニューなど全く関心がないように呟き、男はスーツの胸ポケットから外国煙草と高価そうなライターを取り出した。
煙草を口に咥え、火を点けようとした瞬間…澄佳は硬い表情で口を開いた。
「…あの…。店内は禁煙なんです。
吸うなら外の喫煙コーナーで吸ってください」

男は煙草を口に咥えたまま、にやりと笑った。
「…田舎の定食屋なのに禁煙?
随分、気取っているんだな」
澄佳の形の良い眉が顰められた。
ぎゅっと唇を引き結び…たどたどしく…しかし毅然と続けた。
「…田舎とか…関係ないと思います。
食事中は禁煙するのは当たり前だと思います。
皆さんに美味しくご飯を食べていただきたいだけです」
普段大人しい食堂の看板娘の凛とした注意は、店内の客たちをも静まり返させた。

「…ふうん。…可愛い貌して気が強いんだね」
男は意外に素直な所作で煙草を元に戻した。
「…で、どっちがおすすめ?」
「…え?」
「定食だよ。
きんめとカキフライ、どっちがおすすめなの?」
不意打ちの質問に一瞬口籠もり…ぎこちなく答えた。
「…きんめの煮付けです。
祖母の煮付けは本当に美味しいです」
頬杖をつきながら面白そうに尋ねる。
「カキフライは?美味しくないの?」
むっとしたように澄佳は唇を尖らせたが直ぐに改め、丁寧に答える。
「…美味しくないとは思わないんですけど…私が作るので…。
…あの…祖母のより美味しくはないと思います…」
男が眼を見張り、意外なほど朗らかに楽しげに笑い出した。
それは無表情な冷たい貌とあまりに対照的で、澄佳は驚いた。

男は唇の端に笑みを乗せ、メニューを手渡した。
「じゃあカキフライ。
不味かったら君が責任取ってくれよ」

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