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第1章 prologue

…瑠璃子が自殺未遂をしたのはちょうど一年前…今日のように花冷えのする日のことだった。

瑠璃子は六歳から始めたクラシックバレエの稽古を熱心にするごく普通の朗らかで屈託のない中学生であった。
中高一貫教育の女子大まで付属するカトリック系の私学に通い友達にも恵まれ、楽しそうに中学生生活をスタートさせたかに見えていた。

しかし、出場したバレエのコンクールで瑠璃子が優秀賞を受賞したことで、同じバレエ教室に通う少女のやっかみを買ってしまう。
その少女は毎年受賞を逃していて、普段から教室で目立った存在の瑠璃子を快く思っていなかったのだ。
瑠璃子は人目を峙てるほどの美少女であった。
バレエの才能もあり、指導者の教師は殊の外、瑠璃子に期待を寄せていた。

瑠璃子が母子家庭であるらしいのに富裕な子女が通う有名私学に通っていることも気に入らなかったらしい。

少女は瑠璃子に対してネットの掲示板でありもしない噂を立て、誹謗中傷を繰り返した。
それは直ぐに瑠璃子の耳に入った。
今まで両親や兄から、愛と善意の感情と行為しか与えられてこなかった瑠璃子はパニックに陥ってしまった。

瑠璃子の異変に気付いた由貴子はすぐさま柊司に相談した。
柊司は父親が懇意にしていた弁護士を依頼し、相手の少女の両親と話し合いを持った。
両親は謝罪し、掲示板の書き込みは削除された。

…しかし、瑠璃子の傷は癒えなかった。
学校に行ってもバレエ教室に行っても、誰もかが自分の陰口を聞いているかのような錯覚に陥り、外の世界に出ることを怖がり、部屋に閉じこもるようになってしまったのだ。
心療内科やセラピストへの受診を勧めても、瑠璃子は頑として拒んだ。

…どうしたものか、考えあぐねていた矢先…その事件は起きてしまったのだ。

…僕がそばにいながら、瑠璃子を守ることができなかった…。
あの日の出来事は、今も柊司の胸の奥深くに苦い後悔となって残り続けているのだった。
それは、由貴子も同様に違いなかった。