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フリマアプリの恋人
第1章 prologue
助手席に由貴子を乗せ、柊司は瑠璃子の様子を尋ねた。
「大分状態が安定してきましたね…と、先ほど森先生が仰っていたわ。
…春先は思春期の子どもは稀に思春期鬱に移行する場合もあるらしいから、充分に気をつけて看護と治療する必要があるそうなのだけれど…。
…でも、一年前のことを思えば…まるで夢のよう…。
瑠璃子が元気でいてくれて…笑ったりわがままを言ったりしてくれるなんて…」
やや涙ぐみながら答える由貴子に胸が熱くなる。

柊司はハンドルを握りながら、穏やかに相槌を打つ。
「母様。良く頑張ったよね…」
由貴子を労う。
由貴子は首を振る。
「…私なんか…。
柊司さんがいてくださらなかったら…どうなっていたか…。
…本当にありがとう。感謝してもし足りないわ…」
「当たり前のことをしただけですよ。
…本当は…もっと早くになんとかできたかも知れないのに…。
…すみません、母様…」
由貴子の華奢な白い手が、柊司の二の腕にそっと触れる。
そこだけ火傷しそうな熱を持ち、柊司は一瞬身体を硬ばらせる。
「謝らないで。貴方は全く悪くないわ。
…母親の私に力がなかったの…。
瑠璃子の心の中をしっかりと見つめる力が…」
「…母様…」

夕闇に照らされた由貴子の繊細な人形のような横顔が憂いを帯びる。
…綺麗だな…。

…触れたくても触れられない…美しい聖なるひと…。

柊司は心の中で呟くと、前を向く。

「…これからの瑠璃子をしっかりと支えましょう。
瑠璃子が前を向いて希望を持って力強く生きていけるように。
…それが僕たちの務めです…」

由貴子は柊司の貌を見つめ、そっと囁いた。
「…ありがとう、柊司さん…」

フロントガラスに広がる夕景の桜と由貴子の面影が、そのまま重なった…。



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