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フリマアプリの恋人
第6章 チャイナローズの躊躇い 〜告白〜
車中の男は始終明るかった。
まだ硬い澄佳の気持ちを解すように楽しく盛り上げた。

…片岡の歳は三十二だった。
ニューヨーク大学を卒業後、トマムの巨大リゾートホテルに勤め、昨年退職し実家の家業を継いだ…。
今は町で一番大きな温泉旅館…片岡の経営する傘下の旅館だ…を定宿としていること…旅館の食事に飽きて澄佳の食堂に来たこと…二週に一度程度で東京の自宅に帰宅していること…。
車中に流れる音楽は、澄佳が聴いたことがないような洒落たジャズピアノだ。
「…これ、誰ですか?」
「ビル・エヴァンスだ。昔のアメリカのジャズピアニストさ。
ニューヨークにいるときにジャズにハマってね。
ブルーノート、ビルボードクラブ…いろんなジャズクラブに聴きに行ったよ。
けれどやっぱり昔の名曲ばかり聴いてしまうな」
「…へえ…」
…ニューヨークか…すごいな…。
千葉の田舎の小さな海の町から離れたことがない澄佳は素直に感心する。
「この曲は聴いたことがあるはずだよ。
いつか王子様が…白雪姫だよ。ディズニーの名曲だ」

…someday my prince will come…
片岡は流暢な英語で口ずさんだ。

「…いつか王子様が…。聴いたこと、あります。
昔、両親とディズニーランドに行った時にアトラクションに乗りました。
…あの…フロリダのじゃなくて、浦安の…ですけど…」
海外生活が豊富な男の前で、つい自分と比べてしまい萎縮してしまう。
片岡は朗らかに笑った。
「普通はそうさ。
俺だって子どもの時は浦安のディズニーしか行ったことはなかったよ」
…巧みなハンドル捌きで車を運転する男を盗み見する。
…冷たいけれど、整った横顔…。
引き締まった身体、ハンドルを握る手は大きく…そして美しかった。

…いつか、王子様が…。

私の王子様は…どこにいるのだろう…。

…片岡がふっと澄佳を見つめる。
冷ややかな瞳に不似合いなふわりとした色味を帯びさせて、微笑む。
「…澄佳の王子様になりたいな。
俺は君に一目惚れだったんだ」
いきなりの告白に心臓が飛び跳ねる。
俯いて黙り込んだ澄佳の手を、男は片手ハンドルでしなやかに握り締めた。
びくりと震える手を、柔らかく握り続ける。
「…本気だ…澄佳…」

…流麗なジャズピアノのメロディの中、胸の奥が甘く疼いた…。






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