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フリマアプリの恋人
第6章 チャイナローズの躊躇い 〜告白〜
国産の高級社用車を巧みに運転しながら、宮緒は尋ねた。
「澄佳様はお好みのお洋服のブランドはありますか?
どちらでもお連れいたします」
「…ブランド…ですか…」
…生まれてからずっと田舎町に暮らしていた澄佳は、流行りのファッションには疎い。
たまに街に出ても、大型ショッピングモールで気に入った洋服を買うくらいでブランドにこだわりはない。
第一、店に出ている時間が大部分だから普段着は衣料量販店で売られている機能性重視の地味なものばかりだった。
だからいきなり好きなブランド…と言われても思い浮かばないのだ。

「…あの…。
私、田舎者なのでお洋服のブランドには詳しくないんです。
だから、何がいいのか分かりません…」
澄佳の素直な言葉を聞くと、宮緒は驚きもせずにさりげなく提案した。
「…そうですか…。
では、僭越ですが私が澄佳様にお似合いになりそうなお店にお連れするのでよろしいでしょうか?」
澄佳はほっと胸を撫で下ろした。
「お願いします!助かります」
…それからおずおずと口を開いた。
「…あの…。
それから、お願いがあります」
「何でしょう?」
「…澄佳様はやめてください。
落ち着きません」
…様付けで呼ばれるような人間ではない。
ましてや、宮緒は自分よりずっと年上だ。

宮緒は困ったように端正な眉を寄せた。
「…澄佳様は社長の大切なお方ですから、そういうわけにはまいりません」
「でも、それでは私が困ります。
お願いですから、普通に呼んでください」
宮緒はふっと苦笑すると、穏やかに頷いた。
「…それでは澄佳さんとお呼びいたします」
「良かった!
ずっと澄佳様て呼ばれたらどうしようかと思っちゃった!」
安堵の余り普段の喋り口調になり、慌てて口を抑える。
宮緒が小さく微笑った。
釣られて、澄佳も笑いを漏らした。
車内に和やかな空気が流れた。

…澄佳は緊張に満ちた昨日以来、初めて寛いだ気持ちになったのだ。

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