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フリマアプリの恋人
第6章 チャイナローズの躊躇い 〜告白〜
翌朝、運転手に出迎えられ、慌ただしく出勤した片岡と入れ違いに現れたのは、片岡の主任秘書であった。

…年の頃は片岡より若く…二十代半ば頃…だろうか。
すらりとした長身で痩身、無機質な人形のようにきちりと整った顔にノンフレームの眼鏡をかけ、髪をきちんと撫で付け、ダークグレーのスーツを身に纏った禁欲的なスタイルは秘書というよりヨーロッパの古典的な執事のようにも見えた。
「片岡社長の秘書の宮緒です。
本日は澄佳様の身の回りのお買い物の付き添いを任されました。
どうぞよろしくお願いいたします」
淀みない口調で丁重に挨拶され、綺麗な手で名刺を差し出された。
…大人の…きちんとした役職の人間に間近で接することに慣れていない澄佳は緊張し、名刺を受け取りながら頭を深く下げた。
「…小川澄佳です。
こちらこそよろしくお願いします」
そんな澄佳に宮緒は表情を変えずに告げた。
「では、澄佳様。
お出かけのお支度をされてください。
色々と歩き回りますので、カジュアルなお洋服でよろしいですよ」

澄佳はばつが悪そうに俯いた。
「…私…この服しか持っていないんです…」
…オフショルダーの真珠色のドレス…。
とてもゴージャスで素敵だけれど、日中街中を歩くような服装ではない…。
身につけて来たワンピースは片岡の手で片され、どこにあるか分からない…。
…着替えの服も持っていない自分を、この理知的そうな秘書はどう思っているのだろうか…と考えると気持ちが萎縮する。
惨めな気持ちに肩を竦める澄佳に、宮緒は整った貌の表情をふっと和らげ、微笑った。
それはとても好意的な微笑であった。

「承知しました。
ご心配は要りません。
それではまず、普段着のお洋服を買いにまいりましょう」
澄佳はその微笑みに励まされるように、小さく頷いた。


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