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フリマアプリの恋人
第1章 prologue
…程なくして、由貴子が戻ってきた。
飛び石を丁寧に踏みしめながらこちらに歩み寄る由貴子は品の良い白いレースのブラウスに、春らしい綺麗な若草色のフレアスカート姿だ。
肩まである艶やかな黒髪を緩くバレッタで留めた髪型と相まって年より遥かに若々しく…まるで少女のように見えた。
由貴子は手に保冷バッグのようなものを持っていた。

柊司が車外に出ると、由貴子が笑顔でバッグを手渡した。
「ちらし寿司をおにぎりにして大葉で巻いたわ。
お夜食か朝ご飯に召し上がって。
それから筍の若竹煮と菜の花のおひたし。
筍は朝、煮たのよ。柊司さん、お好きでしょう?」
柊司も貌を綻ばせる。
「母様が作ったの?ありがとう」
昔から由貴子の作った筍の若竹煮は大好物だ。
学校に通っている頃は、弁当に入れてくれとよくねだったものだ。

「普段は自炊?」
「いや、外食ばかりですね。
時間もないし、大学では研究室でコンビニで買ったおにぎりやサンドイッチばかり食べていますよ」
由貴子が美しい眉を寄せる。
「栄養が偏るわ」
…そして…
「…どなたかお食事を作ってくださるお嬢様はいらっしゃらないの?」
柊司はわざと大袈裟に肩を竦めて見せる。
「いたらいいんですけれどね。
…忙しくて出会いもありませんよ…」
「…そう…。
柊司さんみたいな素敵なひとがいつまでもお一人なんて…もったいないわ…」
どこか寂しげな…けれど温かみのある言葉であった。

…そうして、親身に朗らかに付け加えた。
「…良い方が出来たら、ぜひ家に連れていらしてね。
楽しみにお待ちしているわ」

…その言葉から、由貴子の真意を読み取ることはできなかった…。
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