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フリマアプリの恋人
第7章 秋桜の秘密

…澄佳の足音が消え果てたのち、縋り付く由貴子を柊司は、静かに抱きしめる。
「…母様…」
離されまいとしがみついたままの由貴子に優しく声をかける。
「…母様なんていや…。
由貴子と呼んで…」
泣きじゃくる由貴子は、まるで子どものようだった。
…こんな我儘を言う人ではなかった。
由貴子は常に大人で慎み深く奥床しく冷静なひとだった。
取り乱すことなど、なかった。
…僕のせいなのか…。
柊司は唇を噛みしめる。
「…母様…。すみません。
僕には貴女はやはり母様なのです」
「…柊司さん…」
絶望に囚われた美しい瞳が、哀しげに細められる。
由貴子の乱れた髪を梳き上げ、その白い頬に流れる涙を指先で拭う。
「貴女が大好きでしたよ。
…今でも大好きです。
貴女は少年の僕に、温もりと愛情を惜しみなく与えてくれた。
美しく優しい貴女に僕は、記憶にない母を重ね合わせていました。
貴女以上に美しいひとは存在しなかった。
貴女は永遠に僕の憧れのひとです。
…今もそうです。
だから…生々しい感情を持ちたくはなかった。
亡くなった父を裏切りたくはない。
瑠璃子をこれ以上、傷つけたくはない。
…そんなことをしたら、貴女と僕との二十年を穢すことになる。
貴女も想い出も穢したくない…。
美しく清らかな貴女を…心の奥底の一番大切な場所に仕舞っておきたいのです」
「…そんなものはいらないと言ったら…?
私は綺麗事の愛なんていらない…。
生身の貴方がほしい…。
私を抱きしめてくれる強い腕がほしいの…。
貴方に…柊司さんに…女として抱いてほしいの」
熱い口調とともに、なりふり構わずに愛を乞う。
…そんな由貴子を、柊司は美しいと思った。
貞淑さと慎しみ深さをかなぐり捨てた由貴子は、凄絶なまでに艶めいていた。
魂を奪われるほどに、美しかった…。
…けれど…。
縋り付く由貴子の手に、温かさだけを与えるように握りしめる。
最後の決別の言葉を、愛を込めて告げた。
「…赦してください。母様。
貴女を女としては愛せない」
「…母様…」
離されまいとしがみついたままの由貴子に優しく声をかける。
「…母様なんていや…。
由貴子と呼んで…」
泣きじゃくる由貴子は、まるで子どものようだった。
…こんな我儘を言う人ではなかった。
由貴子は常に大人で慎み深く奥床しく冷静なひとだった。
取り乱すことなど、なかった。
…僕のせいなのか…。
柊司は唇を噛みしめる。
「…母様…。すみません。
僕には貴女はやはり母様なのです」
「…柊司さん…」
絶望に囚われた美しい瞳が、哀しげに細められる。
由貴子の乱れた髪を梳き上げ、その白い頬に流れる涙を指先で拭う。
「貴女が大好きでしたよ。
…今でも大好きです。
貴女は少年の僕に、温もりと愛情を惜しみなく与えてくれた。
美しく優しい貴女に僕は、記憶にない母を重ね合わせていました。
貴女以上に美しいひとは存在しなかった。
貴女は永遠に僕の憧れのひとです。
…今もそうです。
だから…生々しい感情を持ちたくはなかった。
亡くなった父を裏切りたくはない。
瑠璃子をこれ以上、傷つけたくはない。
…そんなことをしたら、貴女と僕との二十年を穢すことになる。
貴女も想い出も穢したくない…。
美しく清らかな貴女を…心の奥底の一番大切な場所に仕舞っておきたいのです」
「…そんなものはいらないと言ったら…?
私は綺麗事の愛なんていらない…。
生身の貴方がほしい…。
私を抱きしめてくれる強い腕がほしいの…。
貴方に…柊司さんに…女として抱いてほしいの」
熱い口調とともに、なりふり構わずに愛を乞う。
…そんな由貴子を、柊司は美しいと思った。
貞淑さと慎しみ深さをかなぐり捨てた由貴子は、凄絶なまでに艶めいていた。
魂を奪われるほどに、美しかった…。
…けれど…。
縋り付く由貴子の手に、温かさだけを与えるように握りしめる。
最後の決別の言葉を、愛を込めて告げた。
「…赦してください。母様。
貴女を女としては愛せない」

