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第7章 秋桜の秘密

「…貴方の寄り添う相手は、澄佳さんなのね…」
ぽつりと由貴子の静かな声が聞こえた。

…澄佳…。
先ほどの驚きと哀しみに満ちた澄佳の貌が思い浮かぶ。
…取り返しがつかない哀しみと苦しみを与えてしまった…。
柊司の心は悔恨に沈み込む。

「…僕は…そうありたいと思っている。
けれど…彼女は…」
…もう許してくれないかもしれない…。
心の中で呟いた。

…誰よりも傷つきやすく繊細な心の持ち主だ…。
彼女に辛い過去があることを知りながら…なぜ、自分はこんなにも彼女の心を傷つけてしまったのか…。

黙り込む柊司の手を、今度は由貴子が握りしめた。
…邪心もない…優しい慈愛に満ちた義母の仕草であった。

「…私のせいね…。
ごめんなさい…。
貴方を澄佳さんに取られたくなくて…酷いことをしてしまったわ…」
詫びる由貴子に首を振る。
「母様のせいじゃない。
僕がもっとしっかりと自分を持っていたら良かったんだ。
…彼女とは僕がきちんと向き合って話す。
だから心配しないで」
「…柊司さん…」

柊司は改めて由貴子を見つめる。
…美しい美しい…僕の母様…。

「…瑠璃子のことはひとりで悩まないで。
僕も一緒に瑠璃子の幸せを真剣に考えるから。
母様は、ひとりじゃないんだ…。
…これからもずっと…」
由貴子の切れ長の美しい瞳から、大粒の涙が溢れ…零れ落ちた。
「…柊司さん…」

…そうして、由貴子は長年の苦しい恋から決別するように、その白い手を柊司の頰にそっと差し伸べた。

「…ありがとう…柊司さん」

…そして…さよなら…私の愛した柊司さん…
最後の言葉は、柊司の静謐な抱擁にふわりと溶けて消えた…。