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フリマアプリの恋人
第4章 芍薬の涙
大切な予定があると、1週間はじれったいほどにゆっくり過ぎるのだと澄佳は初めて知った。
…そうしてそわそわと心が落ち着かないことも…。

「あれ?澄ちゃん、今週末は休みか?
残念だなあ…。母ちゃんと昼飯食いにこようかって話してたのによ」
常連の初老の漁師が店の張り紙を見ながら呟いた。
「そうなの。ごめんなさいね…ちょっと用事が出来て…」

陽に焼けた人の良さげな貌ににこにこと笑いを浮かべ、身を乗り出す。
「デートけ?澄ちゃん」
澄佳は男に食後のデザートの葛きりを出しながら、曖昧に笑った。
「…さあ、どうかな…」

男はわざと大袈裟にため息を吐きながら、隣のカウンターで黙々と箸を使う涼太を小突いた。
「おめえがボヤボヤしてっからよ、トンビに油揚げ攫われるだよ。
涼太!しっかりせんか!」
「痛っ!…うるせえ、ジジイ」
むっとしながら、男に肘鉄を食らわす。
「…澄佳だって、デートのひとつやふたつしてもいいだろ。
ジジイは余計なこと、言うんじゃねえよ」

…そうして、カウンターキッチンの内側に立つ澄佳を見上げる。
澄佳にだけに聞こえる声でぼそりと呟いた。
「…でも、無茶すんなよ。なんかあったらいつでも俺に相談してくれ…」

「…涼ちゃん…。ありがとう…」
潤んだ瞳で微笑み返す澄佳をわざと見ないようにして、涼太は残りの海鮮丼を掻き込んだ。



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