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異聞 ヘンゼルとグレーテル
第2章 1
朝が、来ていた。
三日ぶりに食事をし、お風呂も寝間着も用意してもらったヘンゼルとグレーテルはいまだ夢の中。温かい布団に包まり、二人抱き合うようにして眠っていた。そんな二人を見下ろし、魔女は口角を右だけ引き上げて歪んだ笑みを浮かべた。
見目麗しい兄妹を手に入れた事実に気を良くしたのだ。
兄は鳥籠で飼うことにしよう。暫くは鑑賞して楽しみ、もう少し肉付きが良くなったら美味しく食べられるだろう。
妹の方は……あぁ、本当に可愛いね。この子は後二、三年掛けてじっくり味わうのも悪くない。夜毎可愛がれば、その味も甘露になるだろう。
久し振りに、美味い食事を楽しめそうだ……
魔女はゴクリと唾を飲み込むと右の人差し指を立て、宙に小さな円を二つ描いた。魔女の指から離れた円は一度浮上した後、兄妹の額にそれぞれ吸い込まれていく。それを見届けて、魔女が背筋を伸ばした。
「もう朝だよ。お前達は人の世話になっておきながら、いつまで眠っているんだい!」
突然響いた怒鳴り声にヘンゼルとグレーテルは飛び上がるようにしてベッドの上に跳ね起きた。
「おっ、おはようございます」
ほぼ二人同時に頭を下げ、魔女の方へと顔を向ける。寝癖の付いた頭を重そうに揺らし、覚醒ままならない二人の顔はあどけなく、可愛らしい。魔女はそんな様子に満足そうに頷いて、でも続けて吐き出された言葉は二人の身体を縛るものだった。
「ヘンゼル、お前はここを出て居間にある鳥籠の中へ入るんだ。グレーテル、お前は今から絶対服従の奴隷になるんだ。私の事はご主人様と呼ぶんだよ!」
「そんな事、させるもんか!」
「ぃ、いやっ!……えっ!?お兄ちゃん!」
威勢の良い言葉とは裏腹、ヘンゼルは立ち上がりグレーテルの傍から離れて歩き出す。動けないグレーテルはベッドに座り込んだまま、涙の滲む瞳でヘンゼルの後ろ姿を目で追うだけで。
「やめろ!何で勝手に足が動くんだ!!」
「やだっ、やだっ!お兄ちゃん、行かないで!!」
どんなに頑張ってもヘンゼルは思い通りに足を動かす事が出来ず、自ら部屋を出て居間におかれた鳥籠に真っ直ぐ入ってしまった。
三日ぶりに食事をし、お風呂も寝間着も用意してもらったヘンゼルとグレーテルはいまだ夢の中。温かい布団に包まり、二人抱き合うようにして眠っていた。そんな二人を見下ろし、魔女は口角を右だけ引き上げて歪んだ笑みを浮かべた。
見目麗しい兄妹を手に入れた事実に気を良くしたのだ。
兄は鳥籠で飼うことにしよう。暫くは鑑賞して楽しみ、もう少し肉付きが良くなったら美味しく食べられるだろう。
妹の方は……あぁ、本当に可愛いね。この子は後二、三年掛けてじっくり味わうのも悪くない。夜毎可愛がれば、その味も甘露になるだろう。
久し振りに、美味い食事を楽しめそうだ……
魔女はゴクリと唾を飲み込むと右の人差し指を立て、宙に小さな円を二つ描いた。魔女の指から離れた円は一度浮上した後、兄妹の額にそれぞれ吸い込まれていく。それを見届けて、魔女が背筋を伸ばした。
「もう朝だよ。お前達は人の世話になっておきながら、いつまで眠っているんだい!」
突然響いた怒鳴り声にヘンゼルとグレーテルは飛び上がるようにしてベッドの上に跳ね起きた。
「おっ、おはようございます」
ほぼ二人同時に頭を下げ、魔女の方へと顔を向ける。寝癖の付いた頭を重そうに揺らし、覚醒ままならない二人の顔はあどけなく、可愛らしい。魔女はそんな様子に満足そうに頷いて、でも続けて吐き出された言葉は二人の身体を縛るものだった。
「ヘンゼル、お前はここを出て居間にある鳥籠の中へ入るんだ。グレーテル、お前は今から絶対服従の奴隷になるんだ。私の事はご主人様と呼ぶんだよ!」
「そんな事、させるもんか!」
「ぃ、いやっ!……えっ!?お兄ちゃん!」
威勢の良い言葉とは裏腹、ヘンゼルは立ち上がりグレーテルの傍から離れて歩き出す。動けないグレーテルはベッドに座り込んだまま、涙の滲む瞳でヘンゼルの後ろ姿を目で追うだけで。
「やめろ!何で勝手に足が動くんだ!!」
「やだっ、やだっ!お兄ちゃん、行かないで!!」
どんなに頑張ってもヘンゼルは思い通りに足を動かす事が出来ず、自ら部屋を出て居間におかれた鳥籠に真っ直ぐ入ってしまった。