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異聞 ヘンゼルとグレーテル
第2章 1
「グレーテル、お前はその手で鳥籠に鍵を掛けるんだ」
「いやっ、お兄ちゃんにカギなんかかけたくない!!いやっ、いやあ!!」
 抵抗虚しくグレーテルの足も鳥かごへと向かい、兄を見つめたままその鍵に手を添えた。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん!いやっ、いやなのっ!」
 ガチっと低く鈍い音を立て、グレーテルが鳥籠に鍵を掛ける。そのまま泣き崩れたグレーテルに、やっと体の自由を取り戻したヘンゼルが駆け寄った。
「大丈夫、大丈夫だよ、グレーテル。僕は大丈夫。君が鍵を掛けたのはあの魔女のせいだ。分かってるから、そんなに泣かないで?」
 どんなに手を伸ばしても、ヘンゼルはグレーテルの頭を撫でてあげる事しか出来ない。その悔しさを奥歯を噛み締めてただ耐える。
 二人の様子を眺めていた魔女は満足げに口角を上げ、パチンと一つ指を鳴らした。
「おいで、グレーテル。こっちで食事を作るんだ」
「あ、いや……い、や……」
 涙を零して嫌がっているのに、魔女の言葉には逆えない。グレーテルはヘンゼルの手を振り払って立ち上がり、手招きする魔女の腕の中へその身を預けた。
「やめろっ!離せ!グレーテルに触るな!!」
 ヘンゼルの叫びに魔女が嬉しそうに口角を上げる。そしてこれ見よがしにグレーテルを抱き締めると彼女を台所へと連れ去った。
「やめろ!やめろー!!」
 鳥籠に残されたヘンゼルに出来たのは柵を握り締め、ただ叫ぶ事だけだった。
 
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