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歳下の悪魔
第5章  事件と有休


 何だか、和真が大人しい。さっき返事をした時も、いつもより弱々しかった。
 2人とは言っても、会社では他人の目がある。和真だって、何もしてこないだろう。
 他の社員がいるエレベーターに乗り、物品部のある23階へ行く。
「……どうしたの?」
 俯く和真に訊いた。
「何か……。すいません……」
「何が?」
「菌が、出るなんて……」
 それで、落ち込んでいるらしい。
「和真くんのせいじゃないから……」
 彼は何も言わずに、少し頷いただけ。
 私が言ったのは、本当のこと。食品に存在すれば、誰がやっても菌は検出される。
「はい」
 和真がやっと少しだけ元気な声になり、私は複雑な思いを感じた。
 部屋では、悪魔のような存在。そんな彼を今、私は勇気づけている。
 どちらが、本当の和真なんだろう。
 会社ではもう一ヶ月近く一緒にいるのに、未だに分からない。でも彼の落ち込みようは、嘘じゃないだろう。本当に、何も責任はないのに。
「今は、今出来ることをするしかないから。二課のメンバーで、協力しよう。ねっ」
「はい。分かりました」
 和真がやっと、顔を上げる。
 23階で降り、物品部へと急ぐ。
 目的の手袋を大量にもらうには、理由を話さなければならなかった。
 O-157と言っては、大事になるだろう。色々な部所が来るから、話が広まる恐れもある。私達と言うより、会社にとっての大問題。外部へ流出する恐れもある。
 比較的安全な菌の名前を出し、ネットで調べられても大丈夫なようにしておく。
 わざと笑顔で雑談もし、ついでにマスクももらうことにした。
 和真はその様子を、観察するように見ている。
「あっ、俺が持ちます」
 嵩張るが軽い袋を、奪い取るようにされた。
「ありがとう。早く戻ろう?」
「はい」
 和真と一緒に、また急いでエレベーターに乗り込んだ。



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