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幸せの頂点
第2章 栄転



巨大な山のような男。

威圧感が半端ない。


「結婚をしても仕事は続けます。出産も計画的に行いますからご心配なく。」


キャンキャン吠える仔犬が虎に噛み付いても虎は全く動じる様子もなく目的地でタクシーを停めた。


「女は生理だなんだと味覚が変化する。出産前と出産後もかなりの味覚が変わる。」


迷惑そうに部長が私を見下ろす。

悔しいけど…。

事実には逆らえない。

ワインを扱うソムリエの世界でも女性が増えたとはいえ世界一の称号を取れるレベルの女性は男性に比べて僅かな人だけ…。

食品の世界で女性がトップバイヤーとして活躍するにはかなりの努力を必要とする。

彼氏が居て結婚に浮ついた女性は、その努力の世界には相応しくないと部長が私に警告してる。

私の担当は野菜…。

ワイン同様に繊細な味覚を必要とする。


「結婚の予定はまだまだ先です。」


悔しくて部長に震えた声で答える。

克…、ごめん…。

ここで負けを認めるのが嫌だった。

今が自分の頂点なんだと認める事が出来なかった。


「ふーん…。」


興味無さげに部長が鼻を鳴らす。

なんて失礼な人なんだろうと思う。

百貨店という煌びやかな世界に相応しくない男に馬鹿にされている自分を悔しいと思う。

絶対に私という人間を認めさせてやる。

部長に激しい敵意だけを向けていた。

そんな私に気付きもしない部長は小さなお店に入って行く。

個人経営レベルのパスタ専門店。

開店したばかりのお店にお客は私と部長だけ…。

お昼時にはまだ1時間以上もある。

その店に何故、私を連れて来たのかと訝しんで部長を見る。

やはり部長は私の視線を気にする事なく勝手に2人分の前菜とパスタを頼んでしまう。


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