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第12章 更待月(ふけまちづき)

「それで、こちらが転落した時の写真」

持田は二枚の写真を取り出すと、並べて見せる。

「……………」

(何故素人の私に、関係のない奥様の妹の死体写真を見せるのだ……?)

東海林は訝しがりながらも、出された写真に目を落とす。

「……な……何故、二人は同じ恰好で死んでいるのですか?」

敦子はセーラー服の妹と同じ左向き、同じ角度の手足で倒れている。

かっと見開かれた目と驚愕の表情まで、誰かの手で忠実に復元されたかのように同じだった。

「敦子氏は出産した直後から毎日悪夢と不眠が続き、精神的に支障をきたして毎日のように月哉氏との口論が絶えなかったらしい。私共も、駆けつけた時の月哉氏の様子があまりにもおかしかったので、始めは月哉氏を疑がいました」

「そんな! 月哉様には動機もないですし、アリバイなら私や使用人が証明出来ます」

東海林が勢いよく立ち上がったため、パイプ椅子がガタンと倒れる。

「まあまあ…落ち着いて下さい」

持田の部下が椅子を元に戻して、東海林を窘める。
「………………」

促された東海林はバツが悪くなり、椅子に座り直す。

「出産後、敦子氏は悪夢を見ては、母親に毎日のように怯えて電話をしていました。『美耶子に殺される』と」

「……死んだ妹に、殺される……?」

「母親が言うには、育児ノイローゼでそんな事を口走っていたのだろうと……」

東海林は違和感を覚えて、口を開く。

「……鴨志田家には乳母やメイドがいます、育児ノイローゼになる環境では、到底無さそうですが……」

「育児ノイローゼは単なる育児疲れだけが原因ではありません。出産後のホルモン分泌の切り替えによる副作用も、原因とされている」

持田は東海林の指摘をあっさり覆すと、すこし退屈そうな顔をした。

どうやら警察は、育児ノイローゼによる心中に失敗した末の事故死として、処理するつもりのようだ。

「そう言えば……非常階段の監視カメラには、何が写っていたのですか?」

東海林は実際には敦子が階段から落ちる瞬間は見ていなかったため、ずっと気になっていたのだ。

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