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第13章 下弦の月

ばたばたと密葬にて敦子の葬儀を取り行い、暫く経ったある日、東海林の携帯に加賀美から会いたいとの連絡が入った。

その日の仕事が終了した後加賀美本社に出向くと、応接室に通された。

窓から見えるビル群の谷間の夕焼けを疲労の溜まった眼でぼんやりと眺めていると、少しだけ疲れが取れた。

数分待つと、スーツを着た加賀美が現れた。

「お待たせしました。本当ならば俺がそちらに伺うべきだったのに……」

「いえ、近くに用事がありましたから、都合が良かったです」

「ところで……この度は御愁傷様でした――」

加賀美が愁傷な顔で、お悔やみを述べる。

「突然の事で……私共もまだ実感が沸きません」

「あの、死因は転落死とお聞きしたのですが……」

「はい、奥様がご自分で誤って転落されて……加賀美様?」

見ると加賀美は顔面蒼白だった。

「……これ」

加賀美はピンク色の本を差し出した。

装丁にはローマ字でMIYABIと印字されていた。

「加賀美様……これは雅様の日記ですよね? 何故、貴方がお持ちなのですか?」

「……申し訳無い。あの日――雅が自殺未遂をした日、部屋から持ち出したんです……」

「それはまた、どうして……」

自殺未遂の後、月哉が雅の私室を隈無く探させたが、今年に入ってからの日記だけはどこを捜しても見つからず、雅が捨てたのだろうと考えられていた。

「……申し訳ありません……雅を……雅の名誉を守りたかった――」

加賀美は震えながら、頭を垂れた。

(名誉――?)

「失礼します……」

東海林は皮張りのソファーに座って、ページをくる。

ピンク色の紙に朱色のインクで書かれた日記は十三歳という雅の年齢相応のもので、達観したところのある老成した雅からは少し意外な気がした。

日記は今年の元旦から始まっていた。


二月十六日
 お腹が痛い。生理痛がこんなに辛いものだとは……。
 最悪――。
 また一歩大人になってしまった。

二月十七日     
 怖くて食事が喉を通らない。大人になんかなりたくない。
 まだお兄様と一緒にいたい――。

二月二十三日
 武田先生に出会った。
 あの人なら私の願いを叶えてくれるかもしれない。

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