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第3章 三日月

大柄な体格、口髭と顎髭を蓄えているのが森の熊を連想させる、安心感や懐の広さが全面に現れているような男だ。

一方、雅が視界の端に捉えた女は何故か食い入るように雅を見つめていた。

その顔色も何故か、どんどん悪くなる。

(そんなに不躾に、初対面の相手を凝視するなんて……市井の出の方で間違いないわね――)

雅は女が紹介されるまでは見ない振りをして、木村弁護士になるべく人懐こく見えるような笑みを浮かべて挨拶する。

「木村先生、お久しぶりです。四月には入学祝いの六法全書をありがとうございました」

木村弁護士は中学の入学祝いに、分厚い六法全書にピンク色の可愛いリボンを掛けて、送ってくれた。

珍妙なプレゼントを思い出して、雅は笑ってしまう。

「ああ、あれ。雅、結構読みふけっていたよね。不思議の国のアリスさながらの雅が、分厚い六法全書を小脇に抱えているのがアンバランス過ぎて……くく」

兄も思い出し笑いをする。

「先生……女子中学生へのプレゼントに、何故そんな可愛くないものを?」

先程まで様子がおかしく見えた女性は今は普通に見え、呆れた顔をしている。

「あ、雅ちゃん、こちらは高嶋敦子君。私の事務所の弁護士だ」

紹介された敦子は右手を差し出すと、仕事用の笑顔と分かるような表情を浮かべた。

ベージュのルージュの唇が、にいと持ち上げられている。

雅は――下手くそな笑い方、と心の中で毒づく。

「雅さん、高嶋です。宜しくね」

「初めまして、高嶋さん。雅と申します。よろしくお願いいたします」

雅は出された手を握り返すと、社交のお手本のような笑みを浮かべた。

不自然にならないくらいに口角を上げ、頬の位置も上げ、目も笑って見えるよう細める。

月哉に勧められ、皆が席に付く。

「雅ちゃん、御社と鴨志田家の顧問担当を、高嶋くんに代わることになったんだ」

木村が本題に入る。

「……木村先生は? もう担当して頂けないのですか?」

永年世話になった木村が担当から降りるとは、鴨志田に何かあったのかと雅は不安な表情を隠さず尋ねた。

「大丈夫だよ雅、木村先生も顧問は続けて下さる。窓口が高嶋さんに代わるだけだよ」

「そうなのですか。良かったわ」

妹を安心さそうと月哉がしたフォローに、雅は取り敢えず頷く。

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