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第3章 三日月

「お嬢様、月哉様がお呼びです」

フランス語の家庭教師と私室で勉強していた雅を、後藤が呼びに来た。

「Un plus vieux frère me cherche. Je veux terminer la leçon d'aujourd'hui.
 ――兄が私を呼んでいるので、今日の授業は終わりにしても宜しいですか?」

「Je le comprenais. La leçon d'aujourd'hui est finie.
 ――分かりました。今日の授業は終わりにしましょう。」

「Merci. Excuse-moi.
 ――ありがとうございます。失礼します。」

家庭教師に詫びて私室を出る。

道すがら、後藤から顧問弁護士が来ているので呼ばれた旨を聞き、弁護士がわざわざうちまで来るとは、何か自分の所業がばれたのかと、気になり始めた。

「木村先生がいらっしゃるなんて、どうかされたの?」

雅はさりげなく探りを入れる。

「当家の顧問弁護士の担当が木村先生から変わられるそうで、ご紹介されたいようです」

後藤はそんな雅の様子に気付くこともなく、にこやかに答えた。

「そう」

長い階段を下り一階の応接室の前まで来ると、中から大きな笑い声が漏れてきた。

男性の声に混じって聞こえる……初めて聞く女性の笑い声――。

後藤が扉を開けてくれると、雅は嫌な予感が的中していたことが分かった。

三十畳はある重厚な装飾が施された室内には、木村弁護士と兄、そして見知らない女性しかいない。

(あれが今度の、うちの顧問弁護士――最悪)

「失礼致します」

雅は話の邪魔にならないよう、控えめに中に入る。

「ああ雅、待っていたよ。こちらへ来なさい」

気づいた月哉に促されて雅がソファーに近付くと、月哉以外の二人が立ち上がった。

「雅ちゃん、お久しぶり。いや、もう中学生だから雅さんとお呼びするべきかな?」

愛想よく話しかけてきた木村弁護士は、父の代から世話になっているユナイテッド弁護士法人の代表だ。

鴨志田グループ全体と、鴨志田本家の顧問弁護士をお願いしている。

そして唯一、雅の過去を知っている大人――。

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