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第3章 三日月

「雅」

月哉がいつものように両手を広げて雅を受け止めようとするが、雅のほうはいつもと違う兄の姿に鼓動が跳ね上がり、足がすくんでしまう。

頬をほんのり染めた妹を人前だから照れていると取ったらしい月哉が、雅に歩みより小柄な身体を抱きしめる。

どうしたの雅? 皆の前だから恥ずかしいの?」

月哉はいつもと変わらず雅の頭を撫でる。

(だっていつものお兄様もいいけれど、会社にいるお兄様はなんだか違う人みたいで……照れてしまう――)

「あ、あのお兄様、高嶋さんと今日からお世話になります」

月哉から身体を離して敦子の方を振り向くと、二人から視線を向けられた彼女の視線は兄に注がれていた。

雅は瞬時にその眼差しの中に、僅かだが熱っぽさが混じっているのを読み取った。

(落ちた――この女はやはり、兄に惚れてしまった)

雅はひたと敦子に焦点を合わせる。

(見極めなければならない。兄の気持ちはどうなのか――)

獲物を真っ直ぐに捕らえた雅の視線に気づいたのか、我に返った敦子は居づまいを正して月哉に挨拶する。

「鴨志田社長、ふつつかものですが一週間、雅さんとご一緒させていただきます」

「高嶋さん、今回は急に悪かったね。鴨志田の案件の時だけでよいから、雅に色々勉強させてやって下さい」

ウチの姫は世間知らずなところもあるから、沢山ご迷惑かけると思いますが、と月哉は悪戯っぽく雅をからかう。

「仲が宜しいのですね」

敦子はなぜか、少し羨ましそうに微笑んだ。

「二人だけの家族ですからね。ところで、雅は身内の贔屓目でなく頭の良い子ですから、高嶋さんが参加される会議にはすべて参加させてください。極秘の案件もです」

「かしこまりました」

月哉と別れ、宮前の叔父である常務に挨拶した後、二人は予定の会議に参加した。



取材を始めて二日目の午後、雅は敦子と本社の会議に参加していた。

会議が終盤に差し掛かった頃、東海林が会議室に現れた。

「高嶋様、雅様、すみませんが私と一緒にいらしてください。課長、お二人はこれで会議を抜けても宜しいでしょうか?」  

課長が後は我々だけで大丈夫と了承した為、雅たちは秘書に伴われて重役会議室へと連れてこられた。

そこには重役の面々が揃っており、雅を見て皆が立ち上がり会釈をする。

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