この作品は18歳未満閲覧禁止です

  • テキストサイズ
第4章 弓張月(ゆみはりづき)

(敦子だ――!)

敦子はいつもあの香水を少しだけ付けている。

その香りが月哉からした――。

これはどういうことを意味するのだろうか。

部屋に充満したむせ返るような薔薇の香りが、雅に淫らな連想をさせる。

裸で抱き合い、激しくお互いを求め合う二人。

兄の逞しく引き締まった背中が白いシーツの上に横たわり、その上に重なる女の艶めかしい白い肌――。

どくどくと心臓が早鐘を打ち、頭に血が上ったように目の前がチカチカする。

「……お嬢様……お嬢様っ!」

近くで呼ばれてやっと我に返った雅を、後藤が心配そうに窺っていた。

「……下げてください」

「はい?」

黙り込んでいた雅がいきなり低い声でぼそりと呟いた為、後藤は聞き取れず聞き直してくる。

「下げてって言ったのっ!」

口をついて出てしまった言葉は、苛立ちを含んだきついものになってしまい、言った本人の雅が一番驚いた。

「はい、申し訳ございません」

それでも後藤は自分に至らないところがあったのだろうと、静かにティーセットを片付け始めた。

カチャカチャと食器のこすれあう音が静かな部屋に響き渡り、雅は居た堪れなくなった。

「ご……ごめんなさい……その……」

「お嬢様?」

しどろもどろになって言い訳をしようとする雅を、膝を付いた形で食器を下げていた後藤が心配そうに窺う。

「しばらく……薔薇の紅茶は、出さないようにしてくれる……? 薔薇をこの部屋に飾るのも、やめて欲しいの」

「かしこまりました。何か別の紅茶をお持ちします」

後藤はティーセットを載せた盆を持ち、立ち上がる。

「雅様は、お優しいですね」

ふと上から掛けられた言葉に後藤を仰ぎ見ると、彼は小さく微笑んで部屋を立ち去った。

雅は皿の下げられたテーブルに両手を着き、どっと疲労が押し寄せてくるのに耐える。

部屋の中にはいつまでも、薔薇の芳醇な香りが充満していた。

(お兄様……一晩中、敦子と一緒にいたの?  敦子の移り香がするくらい近くにいたの?  触れて……抱きしめたの? さっき私にしたように。  あの人に身も……心も許してしまったの――?)

「どうしてっ! どうしてお兄様は私だけを見ていて下さらないの――っ?」

テーブルに硬く握った両こぶしをぶつける。

くやしくて、くやしくて、噛み締めた歯からぎりぎりと歯軋りがこぼれる。

/144ページ
無料で読める大人のケータイ官能小説とは?
無料で読める大人のケータイ官能小説は、ケータイやスマホ・パソコンから無料で気軽に読むことができるネット小説サイトです。
自分で書いた官能小説や体験談を簡単に公開、連載することができます。しおり機能やメッセージ機能など便利な機能も充実!
お気に入りの作品や作者を探して楽しんだり、自分が小説を公開してたくさんの人に読んでもらおう!

ケータイからアクセスしたい人は下のQRコードをスキャンしてね!!

スマートフォン対応!QRコード


公式Twitterあります

当サイトの公式Twitterもあります!
フォローよろしくお願いします。
>コチラから



TOPTOPへ