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第6章 幾望(きぼう)

その日も翌日も、月哉は帰って来なかった。

武田を訪問した四日後、雅は屋敷で倒れた。

倒れている間に主治医が呼ばれて点滴や輸液を施され、雅は次の日には立ち上がれるまでになっていた。

倒れた日に使用人が月哉へ連絡を入れたらしいが、兄が帰ってくることはなかった。

一日安静にして動けるようになった雅は、食事はまだ受け付けないままだったが、薬が切れた為、武田のところへ出向き、薬を受け取った。

武田は今度は不安そうな表情を隠しもせず、ちゃんと食べているのかと雅を問い詰めた。

しかし雅が嘘を突き通す為、点滴の後に大分待たされ、大量の経口栄養剤を無理やり持たされ、何でもいいから電話しなさいと携帯電話の番号を渡された。

病院の玄関を出ると真夏の黄色い日差しが直に雅の目を襲い、くらりと眩暈に襲われる。

体を支えようと伸ばした手が、ひんやりとした大理石の壁に触れる。

真っ暗な目の前が徐々に光を捉えられるようになるまで、雅は壁に背を預けて耐えた。

やっと焦点を結び始めた瞳を上げると、磨きこまれた硝子に映った醜い自分と目が合った。

その後、雅は新宿までタクシーで向かい、生まれて初めてカジュアルなショップに飛び込んだ。

どきどきと五月蝿い心臓を無視し、マネキンに着せてあった今時の女子高校生が好みそうなカジュアルなコーディネート一式を現金で購入し、化粧室で制服から着替える。

仕上げに他の店で購入した、茶髪のセミロングのウィッグを被る。

鏡でおかしいところがないかチェックをすると、そこにはティーン誌からそのまま飛び出してきたような、今時の没個性的な少女が映っていた。

一房ウィッグから飛び出した長い黒髪を隠そうとして、雅は自嘲して、鏡から目を逸らした。

(お兄様が好きだと仰ったから伸ばしてきたけれど……結局、私とは正反対のショートヘアのあの女を選んだのね――)

雅は事前に調べておいた路地裏にあるインターネットカフェに入る。

ここは小さくて会員登録をさせられないとネットで調べ選んだ。

午前中だから十三歳の雅は法律上は入れるが、身分証明書の提示を求められるのが嫌で大人っぽい服で来た。

それが功を奏して何も言われず入店することが出来た。

しかし、バイトの男子が雅を舐めるような目で見てきた為、不快にはなった。

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