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第6章 幾望(きぼう)

個室に入るとネットで適当な掲示板と出会い系サイトをいくつか選び、USBメモリで持ってきた画像を添付して投稿していく。  


高嶋敦子、二十六歳、弁護士。

彼氏募集中です。

最近彼氏に振られて誰かに慰めて欲しいです。

携帯番号は0九0-××××-××××

電話番号は0三-××××-××××

住所は東京都港区○○ 


十件ほどのサイトに書き込んで、閲覧履歴を削除する。

そしてもうひとつネットで調べ物をすると、雅はネットカフェから出た。

制服に着替えて新宿からタクシーで帰宅し、書き込みをしたサイトをしらみ潰しに見て回る。

三分の一くらいのサイトは運営者によってか削除されていたが、残っていた書き込みには一時間で数十件の書き込みがあった。

(今頃、敦子の会社と携帯電話には、下卑た電話が殺到しているのだろうか。まあ大多数の人間があんな書き込みはスルーするだろうが、一握りの人間だけでも乗ってくれればそれでいい)

雅はパソコンの閲覧履歴を削除すると、意識を失う様にそのままアンティークの椅子で眠りこんだ。



夢の中で雅は、ユナイテッド弁護士法人の中にいた。

敦子の直通外線がひっきりなしで鳴り続け、顔面蒼白でソファーに座り込んでいる敦子の代わりに、木崎が電話に出ては「ウチは関係ありません」と説明している。

携帯電話も鳴り止まないままデスクの上に放置されていた。

騒ぎを聞き付けた社員達が書き込みを検索しては、管理者に削除依頼を出す作業を繰り返していた。

「どうして……どうしてこんな事になるの……」

敦子は自分の身体を抱き締め、嗚咽を漏らしながら人目も憚らず泣いていた。

『ふふ、もっと泣きなさいよ、喚きなさいよ。いい気味だわ。お姉様が横取りするから悪いのよ!』

雅は自分でも驚く位、泣いている敦子を見ることが快感になっていた。

しかし愉悦を得る一方で体の奥深く、漆黒で鈍重なオリのようなものが沈積していく。

暫くすると視界が徐々に薄れ、気がつくと雅は見慣れないマンションの前に立っていた。

エントランスでマンション名を確認し、敦子のマンションだと気がついた。

周りには複数人、どこか擦れた印象を与える男達がたむろしていた。

書き込みを見て駆けつけたのだろう。

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