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第1章 繊月(せんげつ)

何でも屋Aはネット上で見つけた、探偵兼何でも屋だ。

雅は常時三〜四軒の探偵を駒として使えるようストックしている。

ナンパなら顔立ちが品の良い人間を揃えられるAが、素行調査なら元警察官が立ち上げたC社が群を抜いて良い。

「さて、餌に引っかかって下さるかしら」

雅は彼女の身長では少し高すぎる椅子から、飛び降りるように降りる。

私室のリビングにある冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、コップの半分目まで注ぐとまたデスクに戻る。

胸元から繊細な意匠が施されたネックレスを取り出すと、ペンダントトップの鍵をよく使い込まれたあめ色の袖引き出しの一番上にある鍵穴に入れた。

かちり。

静かな部屋に、軽い金属音が響く。

引き出しの中には、キラキラと輝く細長いクリスタルが並べられていた。

その中のひとつを指先で掴むと、雅は両手でクリスタルを注意深く割る。

見た目はクリスタルの細い置物だが、中に物を入れられるように細工したアンプルだ。

中の物が零れないよう注意深く口内に含むと、持ってきたミネラルウォーターで勢いよく流し込む。

(まったく、何回飲んでもこの苦さには慣れないわ! あの、ヤブ医者ったら、何とか改良すればいいものを――!)

美しい額にしわを寄せて苦さに耐えながら、雅は心の中で毒づいた。


 


「引っかかったわ」

何でも屋Aに依頼した一週間後、雅の書斎のデスクの上には、数枚の写真と報告書が広げられていた。

写真にはシティーホテルへと入っていく、男女の写真が収められている。

ただそれだけならばなんてことない写真だが、女のほうは潤んだ瞳で男を上目遣いで見つめ、腕にしな垂れかかっている。

誰が見ても、情事の為にホテルへ入るところと取るだろう。

「馬鹿な女……。お兄様と他の男と両方手に入れてから、選ぶつもりとでも言うの」

雅は薄い唇の端だけで冷たく嗤うと、指紋が残らないように医療用手袋をし、通学鞄の中から学園のPCで作成したA四のレターと、宛名のみを印字済みの汎用されている白い封筒を取り出した。

封筒に写真とレターを一枚同封する。

文面はお決まりの文句にしておいた――。

『ばらされたくなければ、鴨志田から手を引け』

(さて、これをどこのポストに投函すればいいかしら? 報酬も払わなければならないし――)

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