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第7章 十五夜(満月)

人工呼吸を繰り返される雅は、既に事切れたかのようにぐったりしていた。

東海林に吹き込まれる息で華奢な胸が上下するのが更に死を連想させて、加賀美はぶるぶると震えた。

「俺が……俺が雅を殺したんだ……俺が――!」

加賀美は両手で明るい色の頭を抱え、錯乱したかのようにぶつぶつと呟く。

「馬鹿野郎っ! 貴方は仮にも雅様の婚約者でしょう!」

東海林の指摘にはっと加賀美は顔を上げる。

しばらくためらっていたが、おそるおそる雅に近づく。

雅の綺麗な顔は青ざめてはいるが、眠っているように見えた。

「……みやび……雅……頼む、目を覚ましてくれ」

加賀美はだらりと垂れ下がった雅の手を取り強く握り締め、搾り出すように声を掛ける。

「俺と一緒にならなくてもいいから……お願いだ、雅……俺はただ……雅に幸せになって欲しいだけなんだ――」 

「ヘリ、到着しました!」

窓の外の広大な庭にドクターヘリが着陸し、救急ドクター達が雅を運んでいく。

残された東海林は月哉に同行している秘書に連絡を取り、加賀美と車で病院へ向かった。



東海林達が病院に着くと既に雅の処置は始まっていた。

処置室に入って行こうとする看護士を呼び止め、部屋に残されていた薬瓶を渡し、雅に摂食障害の可能性があることを伝えた。

看護士が消えると、東海林は月哉に状況報告の電話をかけに向かおうとした。

「……接食障害?」

振り向くと、加賀美が椅子に座り込んで虚脱していた。

東海林は踵を返して電話を掛けに行くと、月哉は既に接待先から病院へと向かっていた。

「雅の状態はっ?」

電話がつながると、月哉は開口一番そう聞いてくる。

「意識はありません、呼吸も脈も微弱です。今処置中ですので、担当医から詳しい説明はまだありません」

「……どうして……何故、雅が自殺なんて……」

いつもの月哉からは考えられないほど弱々しい声が、携帯電話から聞こえてくる。

「それは……遺書も何もないようでしたので、ご本人に直接聞かれるしか――」

電話を切ると東海林は大きなため息をついて、病院の外壁に凭れ掛った。

(何故、第三者の自分には自殺の原因が思い当たるのに、唯一の肉親である兄が気づかない――)

今まで月哉を社長として尊敬し、従ってきた秘書らしからぬ考えに、東海林は深く嘆息した。

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