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第7章 十五夜(満月)

けたたましい音をさせ、東海林は部屋に押し入った。

(酒の匂い――?)

まだ十三歳の雅の部屋にあるまじき酒臭さに戸惑いながら、東海林は寝室の扉を開ける。

「いない……」

「どうしたんだ? ……大きな音を立てて」

振り返ると私室の戸口に加賀美家の子息が立っていた。

無作法だが騒ぎを聞きつけて、心配になって来たのだろう。

「雅様! どこにいらっしゃるのですか!」

奥の書斎へ近づくと、そこから濃い酒の匂いがする。

「雅様!」

書斎のマホガニーの扉を開けると、奥のデスクに雅の座っている姿が目に飛び込んでくる。

「……寝てる?」

部屋中に立ち込める酒の匂いに酔いそうになりながら、加賀美が呟く。

雅はリクライニングのきいた椅子に背を預け、安らかに眠っているように見えた。

日が落ちる直前の薄暗い夕日が彼女の白い肌を赤く染め上げ、それは一幅の宗教画を見ているように、神聖で静謐な光景だった。

東海林はゆっくり一歩ずつ、雅に近づいていく。

何故か神々しいまでの雅の姿に身震いしながら、東海林は己の中の恐怖と戦っていた。

雅の近くまで来た時、革靴のつま先で何かを蹴った。

(薬瓶……?)

「雅様っ!」

座っている雅の両肩を掴んで揺すると、その首は重力に従ってぐらりと傾いだ。

「救急車っ! 救急車を呼んでくれ――っ!」

東海林の叫びに後藤がいち早く反応し、デスクの電話から近くの鴨志田系列病院に電話する。

「繋がりました! こちらは鴨志田家本邸! ご息女の雅様が倒れましたっ!」

「意識不明! 脈拍はほとんど感じられない……。呼吸も同じだ! おそらく、睡眠薬による自殺だ……。酒も一本ブランデーを空けている」

東海林は雅の容態を報告しながら、足元に月哉が好きな銘柄のブランデーの瓶が転がっているのを確認した。

「五分程でヘリが到着するようです!」と後藤。

東海林はとにかく脳に酸素を送り続けるため、大きな樫材で作られたデスクに雅を寝かせ、人工呼吸を繰り返す。

「……雅、が……、自殺……?」

ぽつりと呟かれた言葉に振り向くと、加賀美が扉に持たれてその光景を放心したように見ていた。

「加賀美さん!」

東海林が怒鳴る。

呼ばれた加賀美は、焦点が合っていないような目でこちらを見てくる。

「近くで雅様に呼びかけてください!」

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